◆◆◆ 衛生管理の基礎知識 ◆◆◆


は じ め に

 最近、消費者の食品に対する安全性の関心は非常に高く、特に食中毒に対し、業界に求められる衛生管理面での厳しさは増しています。
 最近の情勢を振り返ると、一昨年の腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒に始まり、シーズン中、毎日のように食中毒の発生が報道され、衛生管理に対する徹底と安全性の確保が求められています。
 従って、われわれ食品の取扱業者は、常に消費者に「安全な食品を提供する義務と責任」があることを忘れず、食品衛生の根本原則を理解し、安全で衛生的な食品が提供できるよう努めなければなりません。
 この冊子は、生産者、出荷者から生体の受け入れ、並びにと畜及び食肉処理場・加工から流通・消費に至るまでの衛生管理について、安全、安心、清潔、美しさ、快適性をトータルにまとめた冊子です。
 参考になれば幸甚に存じます。

もくじ
  1. 食中毒のいろいろ
  2. 食品衛生の三原則
  3. ハサップってなあ〜に?
  4. 出荷時の衛生管理
  5. 食肉工場の衛生管理
  6. 衛生管理体系
  7. 衛生的な食肉処理法
  8. 冷蔵庫保管の原則と基準
  9. 食肉処理作業に使用する衛生関連の薬剤

■食中毒のいろいろ
 飲食に起因する急性の疾病を食中毒といいます。その原因は食中毒菌が増殖した食品やその細菌が産出した毒素を含んだ食品を喫食したり、有害有毒物質を含んだ食品を食べたり飲んだりすることによります。おもな症状は、吐き気・おう吐・腹痛・下痢・発熱等です。






細菌名原因食品予防のポイント
サルモネラ
肉類およびその加工品、二次的にサルモネラに汚染された食品●食肉類の生食はさける
●冷蔵庫内での二次感染を防ぐ
●熱に弱いので十分加熱
●検便の実施により保菌者の発見
腸炎ビブリオ
海産性の生鮮魚介類およびそ加工食品、二次的に汚染された食品(おもに塩分のあるもの)●漁獲から消費までの一貫した温度管理(低温に)
●二次感染防止
●加熱処理
●8月〜9月の夏期から秋にかけて多発する
●器機類は流水で十分洗浄
ブドウ球菌
おもに穀類とその加工品および菓子類。●化膿巣のある者の調理取扱禁止(個人衛生の徹底)
●手指の洗浄消毒の励行
●残品再加熱はダメ
ウエルシュ菌
鳥獣肉、植物性たんぱく食品、一度加熱された食品の場合が多い。(他の細菌が死滅し食品中の酸素が追い出され発育に至適な嫌気的状態になる)●加熱食品の低温保存によって芽胞の発芽増殖防止
●喫食前加熱して栄養型の菌の死滅をはかる
●集団給食施設は要注意
ボツリヌス菌
保存発酵食品(イズシやキリコミ等)
びん詰
●喫食前加熱
●新鮮な原材料選択
●原材料の洗浄
セレウス菌
嘔吐型 米飯、フライドライス(焼き飯)、スパゲッティ
下痢型 食肉製品、スープ、野菜、プリン、ソース
●食品の汚染防止
●低温保存
●長時間保存をさける
カンピロパクター
本菌は、豚、犬、鳥類の腸の内容から多数検出されており感染源および経路はサルモネラに類似するものと推察される。●生肉と調理済みの肉類は別々に保存
●厳重な手洗い
●二次汚染の防止
腸管出血性大腸菌(O157)
分布が家畜・ペット・健康人や自然環境にまで及んでいるため原因食品は多種にわたる。赤痢や腸チフスのような経口伝染病と同じく井戸水を介して水系の集団発生もみられる●一般の感染型食中毒と同じ。とくに飲料水や食品の加熱は有効
●定期的は水質検査の実施
エルシニア
食肉(家畜、ネズミの腸内容から高率に検出される。感染経路は類似すると考えられる)●食品の加熱は本中毒予防には有効
●5℃前後でも発育するので、保存には注意が必要





植物性→→→毒キノコ、バレイショの芽、毒ゼリなど
動物性→→→フグ、毒カマス、貝など





化学物質の食品中への不適正混入→→→殺そ剤、農薬など
有害性金属による食品汚染→→→微量重金属(ヒ素、鉛)
油脂の変敗→→→揚げ物などの油脂を多く含む食べ物


アレルギー性食中毒→→→サバなど


■食品衛生の3原則
1)作業室内に異物・バクテリアを持ち込まない
 ◆作業室内に入るもの全てから、異物を取り除き殺菌する。
2)作業室内から異物・バクテリアを発生させない
 ◆作業室内のもの全てから、異物を出さず、雑菌を広げない

3)作業室内から異物・バクテリアを排除する
 ◆作業室には不要なものは置かないようにし、早く室外に片づける。必要な時だけ必要な場所に必要はものだけしか置かないことが大切である

■ハサップってな〜に?
HACCP (HAZARD ANALYSIS CRITICAL CONTOROL POINT)
 HACCPとは「危害分析重要管理点監視」とか「危害分析重要管理点方式」と訳されている。これは、O157やサルモネラなどの食品製造システムで、現在の所食品危害対策の決定版はこれしかない。
 今までの食品衛生管理と違うところは、今までの管理は食品を製造した後、その食品が大丈夫かどうかサンプルを検査して、大丈夫だったら出荷をする。あるいは、出荷しているものを定期的に検査をするという方式である。しかし、これでは検査した製品以外が大丈夫だという保証はどこにもない。
 これに対してHACCPでは、それぞれ製造する食品の工程で、食品の危害が発生しそうな場所で、集中的にその危害がないかどうか監視を常に行うのである。
 つまり、原材料や作る商品に危害が出てくると想定して、その危害がないかを製造の幾つかの重要なポイントで検査をしながら製造する。そしてHACCP方式は現在、食品工場にどんどん取り入れられており、食肉専門店でもこの考え方を導入すれば、より安全なお肉を販売することができる。
 国でも「食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法」(HACCP支援法)が7月1日に施行されたことによって、HACCPによる衛生管理の普及・促進を各都道府県に通知した。

■出荷時の衛生管理
 ◆出荷体制
  安全で衛生的な食肉は「農場から食卓まで」の衛生管理によって生まれる。
1)家畜の健康管理
  1. 家畜の健康管理
  2. 畜舎の衛生管理
  3. 飼料の衛生管理
  4. 哺乳畜の健康管理
  5. 離乳から肥育期の管理
●家畜の管理マニュアル、家畜の健康管理記録、畜舎の清掃等管理記録、飼料購入記録を記録するための記録簿を準備し管理する

2)出荷時の生体の洗浄消毒と衛生管理
 生産農家では、出荷時点での疾病、ケガ、残留抗菌性物質、注射針の残留等が無いように徹底しよう。
  1. 出荷時の生体洗浄
  2. 出荷前12時間の断食
  3. 出荷時の注射針の残留マーク
  4. 健康状態の良いものを出荷
●体表の汚れている家畜は、処理場を汚染することになり、結果として食肉を二次汚染することになる。

3)搬送車及び運搬中の衛生管理
 家畜を搬送する場合は、家畜にストレスをかけないよう細心の注意が必要である。
  1. 運搬車両の洗浄消毒
  2. 過密積載の禁止
  3. 走行中のストレス防止
  4. 処理場での車両の消毒
  5. 家畜の穏やかな誘導
  6. 到着後の休息
●「動物の保護及び管理に関する法律」の虐待違反にならないよう、思いやりのある取扱に努めよう。


■食肉工場の衛生管理
1)衛生処理の基本
健康で・清潔な家畜衛生的な作業可食・不可食容器の区別
病原微生物や有害・中毒物質を持ち込まない作業員の手や着衣からの汚染をさせない汚染物質の排除
●搬入される家畜が病気や治療直後であると、菌を排出したり、抗菌物質が残留していることがある。
●家畜の被毛に糞便が付着していたり鎧になっているものは、細菌の巣窟である。

2)衛生的取扱10ヵ条
第1条 搬入家畜の被毛は、清潔で乾燥していること
第2条 解体処理施設は、清潔に
第3条 器具機械の洗浄殺菌を十分に
第4条 身体に異常がある時は、食肉に直接ふれるセクションにつかない
第5条 手洗いは十分に
第6条 汚物とは絶対接触させない
第7条 と体に排泄物等を付着させない
第8条 可食物と不可食物を混同しない
第9条 速やかに冷蔵庫へ
第10条 関係者以外は入室禁止


■衛生管理体系
 食肉を中心とする生鮮食品取扱作業に伴う衛生管理の中心的課題は、従業員の衛生管理、作業環境の衛生管理及び原材料を含む製品の衛生管理という3つの品質・衛生管理の徹底にあることは、言うまでもない。
 これらの衛生管理は、作業開始前、作業中、作業終了後の3つのステップで行う必要のある課題である。


■衛生的な食肉処理法
1)理想的な食肉の管理状態とその状況
●食肉の乾燥は、食肉の物理的変化により、ドリップとして出て行く水分あり、このドリップは乾燥だけでなく、うまみの元であるアミノ酸も一緒に奪っていく。さらに、食肉から出たあとは、食肉に汚れとなってしまう。

2)肉食の変色過程とその理由
肉の状態肉の色変色の理由
↓↓↓↓↓↓↓↓↓
↓↓↓
↓↓↓
と畜後商品となるまでの肉の色赤紫色
(ミオグロビン)
酸素にふれる→↓↓↓
売り場において理想的な肉の色明赤色
(オキシミオグロビン)
肉は酸素に触れることにより明赤色になる。
ブロック肉を切った後、しばらくすると明るい赤色になるのはそのため。
ミンチでも挽いたあと20分ほど冷蔵庫の空気にさらしておくと発色するのも同じ理由。
酸化→↓↓↓ 
古くなり黒っぽく変色した肉の色赤紫色
(メトミオグロビン)
時間がたって、肉の表面がかわき、酸素が十分に肉と溶けなくなると褐色になる。
何日も売れない肉が黒くなるのはこのため。
酸化→↓↓↓ 
くさってしまった肉緑色
(スルフミオグロビン、
コールミオブロビン)
一般に「グリーンミート」と呼ばれる。
こうなると肉そのものが、食べられない危険な状態。
   

■冷蔵庫保管の原則と基準
 ◆冷蔵庫保管の5原則
  1. 食品を入れすぎない(庫内容積の1/2が目安)
  2. 床に直置き厳禁
  3. 商品は裸のまま収納しない(汚染、乾燥、変色、着臭の原因)
  4. 出来るだけ段ボールのまま保管しない(商品が冷えにくい、段ボールは細菌・害虫・ゴミ等がひどい)
  5. 原料、半製品、製品を区別して保管する
 ◆保管基準
 保管温度期間備考

枝肉0℃〜2℃5日 
部分肉(C)−1℃〜2℃3週間チルドパックで保管期間後は冷凍保存
冷凍原料−25℃以下180日 
冷凍製品−25℃以下60日 

枝肉0℃〜2℃3日 
部分肉(C)−1℃から2℃3日3日間はビニール包装チルドパックは1週間
冷凍原料−25℃以下180日 
冷凍製品−25℃以下60日 

 ◆品質管理基準
 商品化出荷時
牛生肉日数最長24日最長25日
品温3℃0℃
細菌数1010
牛冷凍日数150日180日
品温0℃−25℃
細菌数1010
豚生肉日数7日8日
品温3℃0℃
細菌数1010
豚冷凍日数30日60日
品温0℃−25℃
細菌数1010


■食肉処理作業に使用する衛生関連の薬剤
用途基本成分と効果洗浄消毒マニュアル






原則として水や石鹸等での念入りな洗浄後の殺菌・消毒用薬剤の選定。一般的には、”逆性せっけん”が最も多く用いられ、その主成分は塩化ベンザルコニウム1%〜5%溶液が用いられる指の間・腕・肘まで念入りに洗う
バクテリアの溜まりやすい爪の間、指の間はブラシでしっかり洗う。
よく水洗いする。
ペーパータオルでよく拭き取る。
アルコール70%をスプレーし、よくすり込む。
もし、手の平に傷があったら、しっかりガードすること。傷口には黄色ブドウ球菌が発生しやすい。








精肉等の油脂を除去して洗浄効果を高めるために界面活性剤を用いて洗浄し、その後、除菌効果を得るために、塩化ベンザルコニウムを配合した洗浄・除菌剤が多く用いられる。まな板、ふきん、スライサーに用いる。バクテリアのつきやすいまな板・包丁は、作業中でも2時間おきに洗浄し、殺菌・消毒をする。
作業前に殺菌予防をする。
しっかり洗ったまな板は、殺菌洗浄液に浸す。よくすすいだまな板は、ペーパータオルで水気を取り、立てた状態で乾燥させる。
全部の包丁を柄の部分まで殺菌洗浄でよく洗う。
流水でよくすすぎ、ペーパータオルで水気を取る。
トレーに入れ、滅菌器か冷蔵庫に保管する。
スライサーなどの機器類を洗浄する場合は、分解できるところは分解し、よく洗い殺菌洗浄剤につける。












特に、精肉処理作業室等油脂分の多い床面等に洗浄は、界面活性剤にケイ酸塩等を配合して洗浄力を強化した洗剤を用いて洗浄の徹底を図る。ゴミを掃き集め除去する。殺菌・洗浄液を床に散布し約5分間放置する。デッキブラシでブラッシング。ホースで流し洗いし、水切り、モップで清拭きし、乾燥させる。

フタをはずし、ブラシで洗う。ホースで洗い流し、水切り、乾燥させる。天井面、照明器具、パイプライン、壁面棚など高所から順に清拭きする。
 ※ 生食用としては83度以上の温湯で行う。







(特に、手指など)
生鮮・総菜等を中心として、どの作業室でも用いられている除菌用のアルコール液。
食品等に使用しても害のないエタノールが主成分となっている。
ただし、最近ではエタノール液の純度を低めて手に優しく、かつ食品添加物等の混合で殺菌作用を維持させる機能を持ったアルコール液が、市販・活用させてきている。





家畜衛生支援指導コーナーへ戻る

熊本県畜産広場へ戻る