平成16年 9月 1日

於:熊本県農業研究センター

 

 

平成16年度熊本県養豚技術研究会

講演要旨

 

 

我が国の養豚の現状と課題について

 

      ○ 主な項目

1.(社)全国養豚協会とは

2.養豚の現状と課題

(1)規模拡大

(2)環境問題

(3)食肉の安全・安心

(4)疾病問題(豚コレラ、AD、PRRS、PMWS、E型肝炎)

(5)その他の課題

3.WTO、FTA(特に日墨FTA)について

4.将来の方向

 

 

 

 

 

社団法人 全国養豚協会

川  口  昭  平


1.(社)全国養豚協会とは

 

○ 設立:昭和45年2月28日(社)全国種豚協会

○ 改組:昭和47年9月27日(社)全国養豚協会

○ (社)日本種豚登録協会と合併平成17年4月1日をもって(社)日本種豚登録協会と合併することが総会で決定している。

○ 基本姿勢

・(社)全国養豚協会は、「養豚生産者の養豚生産者による養豚生産者のため」の団体

○ これまでの対応

・昭和63年〜平成元年にかけて、(社)全国養豚協会のあるべき姿を検討

・その結果、何をするにも組織が必要との結論に達した。

・平成2年から都道府県会員団体の組織整備活動を展開(養豚生産者を直接の会員とした団体で○○県養豚協会とする)

・平成8年より、養豚生産者の自立の方策として、養豚生産者の拠出(チェックオフ)を提起して現在に至っている。(都道府県段階では、北海道、青森県、群馬県、千葉県、神奈川県、富山県、静岡県、愛知県、宮崎県の9道県でチェックオフを実施している。)

○ これまでの成果

・養豚生産者が結集してガットウルグアイラウンド対策を実施した結果、差額関税制度の堅持、SG、SSG制度を獲得

・養豚問題検討会の開催とその成果としての9.9通達(生産抑制から計画的生産振興へ)

・その他、様々な補助事業の獲得、制度の変更(畜舎の建築基準法の緩和等)

○ これからの対応

・組織の一層の整備(一方で畜産団体の整備統合の実施):組織が統合されても、生産者の声を集められる組織が必要(統合された団体の中に養豚部会を設置するなど)

・生産者の声を調整する機能も必要(生産者間でしっかりと議論して意見を集約しないと、養豚生産者が全く反対の要請を行うことは養豚産業にとってマイナス)

・養豚産業全体の発展に向けて、関連産業との話し合いと調整の実施

・国産豚肉の安定的な消費を維持・拡大するための運動の展開

・養豚生産者の声による新たな養豚政策の提案

 

 ○ 何故(社)日本種豚登録協会と合併するのか?

・両協会は、養豚産業の発展期に創設された生産組織で民法に定められた公益法人である。

・養豚生産が急速に発展し、安定成長の段階に入った現在、消費、流通を見据えた生産体制を構築する必要がある。

・養豚生産の基本となる種豚改良においても、量と効率化から質を加えた改良へと大きく転換する必要があり、種豚利用者との一層の連携が必要である。

・また、我が国でのBSEの発生により、食肉に対する安全性に消費者の関心が強まっており、豚肉に対する安全性についても消費者の意識が高まりトレーサビリティの必要性が高まっている。

・こうしたことから、種豚、肉豚、豚肉生産の組織が一体となり、消費者ニーズを的確に捉えた生産体制の構築を一層進展する必要があり、生産者組織が統合し、更に関係団体が参画できる体制を整えることで、生産者のみの団体ではなく、養豚産業全般を見据え、公益法人として消費者の利益も視野に入れた生産者組織となることが必要となっている。

・なお、両団体は対等合併することから、(社)全国養豚協会の基本姿勢は新しい団体にもそのまま継承される事となっています。

 

2.養豚の現状と課題

(1)規模拡大

・平成16年2月1日現在の養豚農家戸数は8,880戸(前年9,430戸、94.2%)飼養頭数は9,724千頭(同9,725千頭、100%)、子取り用めす豚は、918千頭(同929千頭、98.8%)1戸当たり飼養頭数は1,095頭(同1,031頭、106.2%)となり規模拡大は毎年着実に進んでいる。

・熊本県は戸数では全国で9番目、飼養頭数では11番目、子取り用雌豚頭数では10番目で1戸当たり飼養頭数は858頭で全国平均より規模が小さい。

・農林漁業金融公庫の最近の申し込み状況についての担当課長からの情報では、大規模な養豚場計画が公庫直貸(事業費10億円以上)の案件として数多く申請されている。

・また、食品リサイクルと関連した養豚場の建設が各地で行われており、計画中の案件の情報も複数(関東、九州)聞こえてきている。

・さらに、食肉加工メーカーが養豚生産に進出する情報も複数(北陸、関東、九州)聞こえてきている。

・こうした状況を見ると、今年11月から適用される環境3法によって環境施設未整備養豚場の廃業(一部の県では約1割の生産者が養豚からの撤退を決めており、8月に入って繁殖豚の処分を始めているとの情報もある。)が問題となっている中で、一方ではこうした状況をチャンスと捉え養豚産業の将来は明るいと見ている養豚生産者や企業があり、日本の養豚産業の近い将来の展望は明るいのではないかとも考えられる。

(2)環境問題

・環境の問題については、(社)全国養豚協会の平成15年度の調査において、平成16年11月以降も生産を続ける意志がある養豚生産者の内、平成15年8月現在未整備の養豚場が290戸あった。

・この養豚場のアンケート調査の結果、整備できない要因として@自分の養豚場に最も適した処理方法が分からない、A自己資金では設置できないが補助金の申請方法が分からない等が上位を占めた。

・そこで、都道府県養豚協会を通じて情報提供を行った結果、平成16年4月末には約100戸が整備を開始し、約100戸が整備のための補助金の申請や見積もり等具体的な整備計画の作成を始めていることが分かった。しかしながら、残りの養豚場では規制の対象とならない頭数まで規模を縮小するとか、廃業するなど後ろ向きの対応をすると回答している。

・この調査は、全中と農水省畜産部環境対策室が実施した畜産環境対策プロジェクトの調査対象とならなかった養豚場が対象で、養豚全体を示した結果ではない。畜産環境対策プロジェクトの集計結果が最近明らかにされたが約1,000戸が未整備となっている。

・最近、法律の適用期限の延長を求める声が聞こえてきているが、BSE等で大きな打撃を受けた牛の生産者の声であれば消費者からも少しは理解される可能性はあるが、養豚では全く理解されずむしろマイナスとなる可能性が高い。

・環境3法は家畜の排せつ物を適正に管理することを定めた法律であり、一定の要件を満たしていれば簡易な施設でも適正に管理されていれば法律に抵触しないと言うことも認識しておく必要がある。

・日墨FTA交渉でもこうした取り組みをアピールすることで消費者の理解や他省庁の担当者の理解をえることに成功していることから、環境問題にはむしろ積極的に取り組み、国産豚肉への消費者理解を深めることが重要と考える。

・最後に、法律が出来たことへの対応から現在様々な対策が実施されているが、これによって設置した施設や機械の耐用年数が来て再設置や機械の更新の時には、補助事業の原則から考えて現在のような対応は出来ないことを十分に認識しておく必要がある。つまり、再設置や更新は自らの資金で実施することになることを考えて今から準備する必要がある。

 

(3)食肉の安全・安心

・我が国でのBSEの発生から、食肉の安全、安心を裏切る様々な問題が吹き出し、消費者の食肉に対する信頼が失われた。

・これに対して、牛では全頭の個体識別が行われ番号を持っていない牛は流通できないし、と畜出来ない制度となった。

・さらに、生産情報を公表する特定JASの仕組みが出来上がり、昨年12月に公示されJASマークが貼られた牛肉が流通しはじめている。

・こうした状況から、豚肉のトレーサビリティや生産情報を公表するJAS規格を制定すべきとの要望が多くの養豚生産者から寄せられた。

・しかし、豚は牛と異なり一貫経営が主体であることから@農場間の移動が行われないことから、個体識別を行って生産情報を伝達する必要性が少ない、A個体識別を完全に行えるツールが無い、B豚肉の小売り段階まで個体で対応できない(一つのトレーに複数の豚肉が入るケースが牛肉よりも遙かに多い)等の理由から国は牛肉の様なトレーサビリティを行う考えは持っていない。

・しかし、消費者から見れば「牛で出来ることを豚は何故出来ないのか」と疑問をもって豚肉の消費に影響が出るのではないか、これを機会に輸入豚肉との差別化を行うべき等という意見から、豚肉の生産情報公表JASの制度が検討され6月25日に告示され、7月25日に施行されているが現在実施しているところはない。

・現在(社)食品産業センターが全国5カ所(10月12日・東京、14日・仙台、18日・松山、29日・鹿児島サンロイヤルホテル、11月2日・名古屋、8日・札幌)で説明会を開催する準備を進めており、詳細については説明会に参加されて情報収集して下さい。なお、各会場の詳細が決まりましたら(社)熊本県畜産協会を通じてご案内します。

・生産情報公表JASについては、群馬県や千葉県が県と協力して導入を検討しており、平成  16年度中にモデル事業がスタートすることとなっています。また、新潟県ではクリーンポーク事業と称して注射針の残留や抗生物質の残留などを無くすための記録記帳運動を既に展開しており、これをベースに生産情報を公表することで銘柄化を図ろうとしている。

・また、全農や一部食肉加工会社が実施に向けて準備を進めている。

・(社)全国養豚協会では、平成14年度からこうした動きに対応するための人材育成としてHACCPのワークショップを開催して参加費の一部を補助している。

・また、平成15年度には養豚生産者が最低限実施しておかなければならない、安全や安心の為の記録、記帳について解説したパンフレットを作成して配布している。

・安心や安全に関する要望は、好むと好まざるとに関わらず今後益々強まってくると考えられるが、過剰反応する必要はなく最低限の記録とこの記録の正しさを証明する第三者認証の仕組みを作っておけばよいと考えている。

(4)疾病問題(豚コレラ、AD、PRRS、PMWS、E型肝炎)

・日本の養豚の生産技術水準は世界の中で上位にある。しかし、これはあくまでも平均レベルでのことである。輸入豚肉と競争するためには輸出国のエリートと競争することになる。したがって、生産技術水準は高いとは言い難い。

・特に、疾病に対する対応については、豚肉輸出国では無いという甘えの構造があり、世界的に見ても上位とは言い難い。

・これからは、疾病毎の特徴を十分に認識して対応方針を考える必要があり、こうした対応を行うには、現場からの正確な情報が不可欠です。

・例えば、世界一優れた生ワクチンが開発された経緯やワクチン接種を用いない豚コレラ防疫対策への移行に取り組んだ経緯を振り返ると

@             豚コレラは養豚生産者にとって最もおそれられている急性の伝染病であった。

A             これの対策として、不活化ワクチン(クリスタルバイオレット)が使用されていました。

B             発生があるとワクチンの接種が行われましたが、ワクチン製造に高度な技術が必要で当時の我が国の技術では、十分に不活化が出来ていないワクチンが製造されることもあり、ワクチンを接種したことで豚コレラを発生させてしまうこともありました。

C             こうした中で、事故を起こさないワクチンを開発しようと、当時の農水省衛生試験場が乗り出したのですが、ワクチンを作るにはウイルスが必要で、発生地に出向いて材料を収集することになりました。

D             しかし、当時の生産者はワクチンに対する信頼もなく、豚コレラを完全に防ぐすべがないことにいらだっており、研究者に対して非常に冷たい態度をとったものでした。

E             しかし、研究者はそうした養豚生産者の冷たい態度は自分たちの力が無いからだと懸命に努力を続けられ、生ワクチンの開発に成功しました。

F             しかし、当時の養豚生産者は不活化ワクチンについても信頼できないのに、ウイルスそのものを使った生ワクチンについては全く信頼しませんでした。

G             折角開発された優れたワクチンをなんとか使って貰いたいと、農水省では接種に関する補助金を準備して説得を行い漸く生産者の理解を得ることとなりました。

H             しかし、生ワクチンであることからこのワクチンの使用については、野外のウイルスが駆逐できた段階で使用を中止することが決められていました。

I             何故、使い続けるといけないかという理由は、ワクチンというのは特定のウイルスに効果があるもので、我が国で流行していたウイルスには劇的な効果を示していても、違う種類のウイルスには効果がない可能性があります。また、野外のウイルスも生き残りをかけて変異を起こし、ワクチンが効かないものに変異する可能性があるからです。つまり、変異したウイルスに対応したワクチンを新たに開発する必要が出てくるのです。

J             皆さんもご存知の抗生物質について耐性菌が出来て問題となっていることと同じになるのです。人体薬の場合は巨額の開発費を投入できますが動物薬ではそうした投資は、全て養豚生産者の負担となるのです。

K             国の説得で漸く新しいワクチンの使用が始まりましたが、生ワクチンを実際に使用してみると、ワクチン接種を行った豚は同居豚が発症しても豚コレラには罹らないと言う効果を示しました。

L             補助金の効果も手伝って、ワクチン接種率が急速に増加すると、豚コレラの発生は無くなります。しかし、発生が無い状態が暫く続き、豚価が下がったりするとワクチンの接種を止めてしまう生産者が現れ、そうした農場で豚コレラが発生してしまうと言うことを繰り返すこととなりました。

M             こうした状況は前にも述べたとおり、野外ウイルスが変異を起こすことに繋がり非常に危険な状態を生み出しかねないものでした。

N             そこで、基本に立ち返って野外ウイルスの根絶のために発生が無い状況が続いている中で全ての生産者がワクチン接種を100%行い、野外ウイルスに引導を渡し、その後、ワクチンの接種を中止することが考えられました。

・豚コレラの撲滅については、以上のような世界一優れた生ワクチンが我が国で開発された経緯やワクチン接種を用いない豚コレラ防疫対策への移行に取り組んだ経緯を十分に認識し、この疾病が、口蹄疫や高病原性鳥インフルエンザやBSEとは伝搬経路が全く異なることを認識すれば、養豚生産者個々の自己責任においてワクチンに依存しない防疫対策が実施できる。

・つまり、豚コレラは接触・摂食感染であり、口蹄疫や高病原性鳥インフルエンザのように風や野鳥から感染することはないのです。また、BSEは原因が究明されていませんが日本での発生は海外のプリオンを含んだ飼料を給与したことによる可能性が高いとされています。したがって、豚コレラは養豚生産者の自己責任で十分に防げるのです。

・また、現在の状況から後退せずにワクチン接種完全中止を早急に実施しないと豚コレラの撲滅は達成できないこととなり、将来的には豚コレラの防疫に多額の経費が必要となる可能性を十分に認識して対応を考える必要があります。

・しかし、鹿児島における豚コレラを疑う症例の発生については、県境を接している熊本県の生産者の方々にとって早く解決して欲しいと願っておられることと思います。

・(社)全国養豚協会にも、(社)青森県養豚協会、ナイスポークチバ推進協議会、みやざき養豚生産者協議会から文書をもって農林水産省や鹿児島県に要請するよう要望がありました。また、多くの都道府県養豚協会からも情報の提供や農水省へ要望すべきとの電話連絡もいただきました。

・こうした要請を受けて、(社)全国養豚協会では農水省消費・安全局衛生管理課の担当者に口頭で要請を伝えるとともに情報収集に努めました。

・また、この問題が豚原皮の中国への輸出停止と関連し、口蹄疫の発生時と同様に豚原皮が商品から廃棄物にされ、廃棄手数料を生産者が支払うこととなる可能性もあることから、養豚FTA等対策協議会が8月23日に農水大臣、消費・安全局長、衛生管理課長に要請を行いました。

・この問題では、鹿児島県の周辺の養豚生産者から緊急ワクチンの使用について要請が行われていますが、今の段階でワクチンの接種を行えば、原因究明が一層困難となり、被害が増大することが考えられ、鹿児島県では新たなワクチン接種の申請は受け付けないこととしています。

・豚コレラワクチン接種全面中止のメリットと一部接種継続のデメリット(農水省資料)

● 豚コレラワクチン接種全面中止のメリット

 

メリット

国内防疫関係

・万一の発生の際、異常豚を発見しやすい。

・発生時には、迅速な抗体検査によって、清浄性を確認できる。

動物検疫関係

・豚コレラ清浄国として、現在実施している検疫措置(豚コレラ発生国及び豚コレラワクチン接種国からの輸入停止)を継続できる。

生産者関係

・ワクチン接種経緯の負担がなく、生産性が向上する。

・疾病清浄化により、業界イメージがアップする。

・将来的な輸出の可能性が開ける。

● 豚コレラワクチンの一部接種継続のデメリット

 

メリット

国内防疫関係

・接種農家の清浄性の確認が困難(ウイルス分離が必要であり、発生時の防疫措置に混乱

動物検疫関係

・豚コレラ清浄国として、現在実施している検疫措置(豚コレラ発生国及び豚コレラワクチン接種国からの輸入停止)を継続できる。

生産者関係

・ワクチン接種経緯の負担がなく、生産性が向上する。

・疾病清浄化により、業界イメージがアップする。

・将来的な輸出の可能性が開ける。

 

・現在、豚コレラに続いてADやPRRSの撲滅を求める声(群馬県、神奈川県等)が強まっていますが、伝染性の強い疾病については地域や県、全国で一斉に対応しなければ良い結果は得られないと言うことを十分に認識する必要があります。

・アメリカでは、AD、PRRS、PMWSについて撲滅計画を作成中で近々実行に移されるという情報もあります。アメリカでは、計画段階で生産者が意見を出し合い、賛成反対両方の意見を十分に戦わせ、最終結論については全員が一丸となって実行する体制が出来ています。しかし、我が国の場合は、企画立案を県や国が行い、一部の生産者が委員会に参加して意見を述べる程度で実行に移される場合が殆どで、実行に移されて始めて生産者の意見が出てくるといったシステムになっています。

・これからは、生産者の側から提案し、生産者が十分に意見を戦わせて結論を出して県や国の支援を受ける体制とすべきです。

・また、E型肝炎のように人畜共通疾病(?)の問題も今後の調査、研究結果を注視しておく必要があります。

(5)その他の課題

・生産者の手の届かない部分のコスト削減(規制緩和、関連業界の体質改善等)

・飼料事情(当分の間、飼料原料価格の上位安定が続くとの意見が多い。)

・生産者組織のあり方(全ての生産者が参加した、生産者の生産者による生産者のための組織で活動すべきです。それには、生産者が自ら活動費や運営費を出し合う必要があります。)

・補助事業(現在、価格安定対策として地域肉豚、経営安定対策として地域養豚、養豚振興対策として養豚振興体制整備の事業が実施されているが、いずれも財政難と農業や食料に対する基本的な考え方から先の見通しは明るくない。)

・担い手問題(養豚農家の後継者問題は深刻だが、企業養豚の人材育成は進んでいると聞いている。)

 


3.WTO、FTA(特に日墨FTA)について

(1)                                                 自由貿易協定(FTA)とは!

WTO体制が、WTO参加国のどの国に対しても同様な条件で関税などの通商規則を定める事が原則(最恵国待遇)であるのに対して、自由貿易協定(FTA)は、協定構成国のみを対象として、排他的に関税の撤廃等を実施する仕組み。

 つまり、WTO体制では関税を引き下げる交渉を行っているが、FTA交渉では関税を撤廃する(0にする)ことにより、協定締結国どうしが利益を得ることを目指している。

 なお、自由貿易協定はWTOの基本理念である最恵国待遇の原則の例外扱いとなることから、GATT第24条によって構成国間の実質上の全ての貿易について原則として10年以内に関税や制限的通商規則を廃止することが求められている。

 この「原則として」という部分について、ヨーロッパ各国が経済統合を目指しているEUにおいては、@貿易量の90%以上、A特定の分野を除外しない、B内容をWTOに通報(例外品目の内容・割合も公表)と主張しています。

しかし、これまでに多くの国や地域でFTAが締結されたが、いずれの場合も例外品目を設けているにもかかわらず、GATT第24条に適合しているかどうか審議されたことはありません。

(2)                                                 メキシコとのFTAで豚肉が対象品目になった場合の問題点何だったのか?

 1)メキシコからの豚肉価格は日本港到着で276円、同時期の国内枝肉卸売価格は平均で   448円(平成11年度)となっており、関税が0となればメキシコからの豚肉輸入が大幅に増大する。

 2)これにより、我が国の豚肉生産が大きな打撃を受ければ、と畜場、飼料、動薬など関連業界にとっても大きな打撃となることから、我が国畜産全体に大きな影響が出て、畜産業全体が壊滅的な打撃を受ける。

 3)また、メキシコとのFTAで豚肉の関税を0とすることにより、日本へ豚肉を輸出している国々(アメリカ、カナダ、デンマーク等)が競争力を失うことから、これらの国からも関税を撤廃するよう求められる可能性が強く、交渉が行われているWTO農業交渉にも大きな影響が出ると考えられた。

(3)                                                 我が国の自由貿易協定の状況

   シンガポール  2002年に締結(農業関係は無し)

   韓国      2001年から事前検討開始、2003年12月から政府間交渉開始(韓国側の主張、FTA締結には農産物が含まれることが不可欠)

   タイ      2002年から作業部会で事前検討を開始2004年2月政府間交渉開始(タイ側は、コメ、鶏肉、でんぷん、砂糖等をはじめとする農林水産物の関税及び動植物検疫等の簡素化に強い関心)

   フィリピン   2002年に作業部会設置を合意2004年2月政府間開始(フィリピン側は、農業分野も対象、検疫措置についても強い関心)

   マレーシア   2003年に作業部会設置を合意2004年1月政府間交渉開始(内容については検討中)

   オーストラリア 2002年に日豪間の経済的繋がりについて協議を開始することで合意(現状はFTA交渉ではない)

   チリ      2002年にFTAを目的としない2国間経済協議開始を合意

   台湾      2001年に民間ベースのFTA研究会を開始することに合意(現在産業界でFTAの影響等について検討中)

 

(4)                                                 養豚生産者の運動(関税撤廃品目から豚肉を完全除外する)

1)養豚生産者運動の始まり

メキシコとのFTA締結で関税が0となれば我が国養豚産業への影響は計り知れないものがあるとの認識から、(社)全国養豚協会や全国養豚経営者会議がそれぞれ政府に対して要請を行ったがこの要請の過程で、この問題は従来の要請活動のように農林水産省を中心に農林関係議員のみを対象とした活動では解決しないと判断

(社)全国養豚協会、全国養豚経営者会議、日本養豚事業協同組合の3団体が中心になって、我が国養豚生産者の総意で官邸をはじめとして、交渉に関係する全ての省庁(外務、財務、経済産業)や関係国会議員などへの要請を行うため、FTA等対策協議会を設立することとして全養豚生産者に趣意書を送付。賛同を求めると共に活動資金の拠出を求めた。

 一方で、養豚関連団体に対しても養豚生産が大きな打撃を受ければ、関連産業も大きな影響を受けることを説明し運動への強力を要請。

2)FTA等対策協議会の設立

設立に賛同する養豚生産者が1,000名を超えたことから、FTA等対策協議会の設立総会を開催して運動方針を決定。

3)FTA等対策協議会の活動(主な活動のみ 詳細は別紙参照)

@ 7月15日 FTA等対策協議会設立総会

A             7月29日 FTA等対策協議会役員会(決起集会、消費拡大シンポジウム、今後の活動等協議)、日本経団連との意見交換会

B             8月 7日 メキシコFTA豚肉除外決起集会、国産豚肉消費拡大シンポジウム

C             8月13日 メキシコ民間団体(貿易関連企業団体連絡協議会)との意見交換

D             8月14日 日墨(日本メキシコ)FTA政府間交渉経過報告会(日本側各省庁担当者)

E             9月 9日 FTA等対策協議会役員会(メキシコへの代表団派遣について協議)

F             9月16日〜22日 メキシコ・カンクンに代表団派遣(両国交渉団との経過報告会及び意見交換会、メキシコ養豚生産者との意見交換、ユカタン州の養豚場及び食肉処理場視察、現地メディアへの意見表明等)

G             10月 3日 マスコミ各社論説・解説委員等との懇談会

H             10月 4日 農水省、経済産業省交渉担当官の養豚場視察

I             10月11日 メキシコ民間団体の養豚場視察、メキシコ民間団体との意見交換会、日墨政府間交渉経過報告会

J             11月18日 FTA等対策協議会役員会(活動及び拠出金について中間取りまとめ、今後の活動方針検討他)

K             11月20・26日 経済産業省審議官他、外務省参事官他の養豚場視察

  上記の他、この間、官邸、国会議員、自民党農林関係部会、各省庁担当部局への陳情、要請を頻繁に行い、官邸や国会議員への要請に際ししては、選出地元養豚生産者の方々も同行願った。

なお、FTA等対策協議会の平成15年度総会が7月2日(金)東京・新宿区飯田橋、家の光会館7Fコンベンションホールで開催され、活動報告及び決算報告と今後の活動方針が審議承認された。

 


(5)                                                 メキシコとのFTA結果(豚肉)

1)差額関税制度が堅持された(図参照)

2)従価税部分の税率を4.3%から2.2%に引き下げる。

3)引き下げた関税率の適用は、現在のメキシコからの輸入量約4万トンの約2倍の8万トンとする。(輸入量が8万トンを超えた場合は従価税部分の関税は4.3%に戻る)

 

上記2)及び3)については、現段階では5年間で段階的に実施されるとの情報があるが、5年間均等(関税引き下げ0.42%/年、輸入枠8千トン/年)に実施されるかどうかは不明。

○課税後の輸入豚肉価格

 
 

 


メキシコとの合意→401.6

 

8.3円下げ

 

分岐点価格

 

輸入価格

(円/s)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


4.将来方向

将来の方向について述べられるほど認識も予測能力もありません。

しかし、将来の方向を決めるのは、生産者の方々であることは間違いないと言い切れます。

生産者でない我々がどんなにすばらしい計画を作っても、それを実践するのは生産者の皆様です。

「(社)全国養豚協会とは」でお話ししたように、協会の基本姿勢は「養豚生産者の養豚生産者による養豚生産者のため」なのです。

それでは、「協会事務局は何をするのか」という声が聞こえてきます。そのお答えは次の2つです。

@             養豚生産者の皆様からの意見を取りまとめたり、要望の実現に向けて事務的に対応方向を考えたり、具体的に事業を組み立てるお手伝いをします。また、必要な情報の調査や提供を行います。

A             養豚産業全体や将来を見据えて今後対応すべき方向について検討を行い、養豚生産者の方々や政府などに提案していきます。

いずれにしても、様々な活動を行うには組織と資金が必要で、活動で成果を上げるには優秀な人材の育成が不可欠です。

熊本県では養豚生産者の新しい組織が設立され、こうした情勢を踏まえて活動されるものと確信しております。

今後とも(社)全国養豚協会(平成17年4月からは仮称(社)日本養豚協会)に建設的なご意見をいただきますと共に、皆さんの総意で実施する活動については、ご理解と、ご支援、ご協力をよろしくお願いします。