家畜ふん尿の悪臭防止

熊本県畜産会
非常勤畜産コンサルタント 木庭研二


はじめに
 畜産経営の規模拡大と専業化が全国的に進行していますが、家畜ふん尿の経営内および地域内利用が伴わない場合が多くなってきています。このため、家畜ふん尿が集中・偏在化する傾向が強くふん尿が十分に処理されないまま利用されていることが見受けられます。
 これらのことが悪臭発生や水質汚濁および地下水汚染などの環境問題を深刻化させています。
 また、自然形態系の保全に対する国民の意識の高まり、環境汚染に関連する法律の規制強化等、家畜経営に対する諸情勢が年々厳しさを増しています。
 一方では、家畜ふん尿処理に要する経費が利益に結びつかないケースが多く、家畜農家における家畜ふん尿処理は大きな経営負担となっています。
 ふん尿処理過程で発生する臭気は、極めて高濃度でかつ不快であり、広い面積から発生するので苦情を招くことが多くなります。
 そこで、悪臭防止対策の話をする前の基礎として、臭気成分の特性、畜産臭気の特徴および発生状況の概要について述べます。

臭気成分の特性
  1. 「におい」の化合物は約40万種もあるといわれ、人間の嗅覚で識別できるものはそのうちの3,000〜10,000種といわれています。
  2. 悪臭(以下臭気と呼ぶ)とは、人に不快感、嫌悪感を与えるものであって一般に低濃度、多成分の複合臭気であり、人間の嗅覚に直接訴え、生活環境をそこなうおそれがある「におい」であります。
  3. 人間の嗅覚というものは極めて複雑かつ微妙なもので、臭気を感じる状態は、臭気の種類、その濃度と他の物質との組合せ、時間帯、持続時間、人間の体調などに大きく左右されます。
  4. 通常インドール、スカトールは濃度との相関が強く、インドール、スカトールは、濃度が高い場合はふん便臭の臭気成分であるが、その濃度が低くなれば芳香性(前者はスミレ、後者はジャスミンや沈丁花)の「におい」となり、香水などの原料として用いられています。
    表1 身近な臭気成分の例
    においの種類主因物質名化 学 式
    人間の汗・体臭尿素とその分解物NH2 CONH2
    乳酸CH3 CH(OH)COOH
    プロピオン酸C2 H5 COOH
    酪酸C3 H7 COOH
    吉草酸C4 H9 COOH
    動物の体臭カプリール酸C7 H15 COOH
    腐卵臭硫化水素H2 S
    刺激臭アンモニアNH3
    硫化アンモニウム(NH2)2 S
    メチルアミンCH3 NH2
    ねぎ・ねんにく臭メチルメルカプタンCH2 −CH−CHO系
    エチルメルカプタンC2 H5 SH
    二硫化アクルプロピンC3 H5・S・S・C3 H7
    油やけ臭
    油こげ臭
    アクロレイン系CH2 −CH−CHO系
    糞便様臭インドール
    スカトール
    肉の料理臭硫化メチル(CH3)2 S
    キャベツの料理臭二硫化ジメチルCH3 SSCH3
    チーズのにおいアセチルメチルカルビノールCH3・CO・CH・OH・CH3
    「家畜糞尿処理利用の知識とその実際」中央畜産会編、動物及び汚物の無臭焼却について日本獣医畜産大学紀要、1966。

  5. 一般に、感覚の強さは刺激の対数に比例し、臭気強度Iと臭気濃度Cとの間には次の関係が成り立つとされています。
    I=k log C+a

     これをウェバ・フェヒナーの法則(Weder−Fechner’s Iaw)と言います。ここでkおよびaは成分によって定まる定数です。
     この法則は、臭気強度を1段階低下させるためには、臭気濃度が1/10にならなければなりません。
     いわゆる人間の臭覚は、臭気成分の量が10倍・100倍になって初めて、人間が感じる「におい」の強さ(人間が受ける刺激の強さ)は2倍・3倍になる。逆に、臭気成分の量が1/10・1/100になって「におい」の強さ(人間が受ける刺激の強さ)は1/2・1/3に感じられるという特性を有しているということであります。
     したがって、畜舎臭気のような複合臭気について対策を講ずるにあたっては、このような臭気の特性を考慮し、閾値(においの強さを表す場合に何らかのにおいが感じられる最小濃度)の低いものや量的に多いものに焦点を充てて行った方が効果的であります。
     畜産関連の低閾値の成分としては、硫化水素、メチルメルカプタン、硫化メチルのどの流黄化合物や、トリメチルアミンなどのアミン類、およびアルデヒド類、低級脂肪酸類、フェノール類などが挙げられます。
     アンモニアは比較的閾値が高い方でありますが、畜産関係では発生量が非常に多く、臭気全体への影響が強くなります。

畜産臭気の特徴
  1. 畜産での発生臭気が他分野の業種と異なる点は、まず発生源が畜舎、家畜、ふん尿処理施設、放牧場、運動場などにわたり、その対策が難しいことであります。また、臭気成分が多種多様な不快感の強い複合臭気(現在確認されている臭気成分の例、豚:230種、鶏:150種、牛:94種)であることです。
  2. ふん尿処理施設と畜舎等で発生する臭気の特徴は、前者では臭気ガス濃度は比較的高く、ガス風量は少なく、臭気成分としてはアンモニアが主成分となっており、後者では臭気ガス濃度は低く、ガス風量は大きくなります。
  3. 基礎試験での豚ふんの堆肥化過程で発生する臭気は、アンモニアガスは数万ppmに達し、メチルメルカプタンは1,000ppmの濃度になることがあります。
畜産での臭気成分の発生状況
  1. 畜産から発生する臭気は、主としてふん尿や飼料中の栄養物に由来し、微生物の増殖に伴うこれらの栄養物の分解によって生じます。
     したがって、温度・水分・酸素などの条件によって、発生する臭気が著しく相違します。

    図1 臭気発生の模式図
  2. 畜産現場における臭気成分も複合臭気であります。したがって、その対策にあたっては、それを構成する臭気成分の種類と特性を理解する必要があります。
  3. 低級脂肪酸(VFA)は、主に微生物の作用により、消化管内容物中の脂肪や炭水化物および蛋白質の分解物として発生します。
  4. 生成したVFAは好気的条件下では、速やかに二酸化炭素(CO2)と水(H2O)に分解しますが、嫌気的条件下では集積して臭気が強くなります。
  5. 尿にふんが混入すると微生物のウレアーゼで、尿素は速やかにアンモニアに分解されるとともに、ふんは嫌気状態となり腐敗性分解が起こり強い臭気となります。
  6. 堆肥化のスラリーの液状コンポストでは、最初に硫黄化合物主体が生じ、品温の上昇に続いて大量のアンモニアが発生します。  スラリーの場合は、曝気前においても曝気後においても、その不快度と低級脂肪酸類やインドール類やフェノール類の濃度との関係が高いが、硫化物の場合は曝気液での相関が低く、アンモニアはいずれにおいても相関が認められません。
  7. 飼料、排泄物、敷料、畜体等から粉塵は発生するが、臭気や微生物を一緒に人間の鼻の気道の奥深く運ぶため、臭気を強く感じます、
     なお、粉塵により舎内の臭気がかなり除かれます。

    図2 ウィンドレス鶏舎におけるNH3ガス濃度:粉塵量の変化

    参考文献
    1. 福森功:生物系特定産業技術研究推進機構、家畜ふん尿処理と悪臭防止技術に関する研修会資料(1992)
    2. 畜産環境整備機構:家畜ふん尿処理・利用の手引き(1998)