■■■ 86歳! いまでも牛飼いの現役 ■■■


熊本県畜産協会 総括畜産コンサルタント 川崎広通
熊本県畜産協会 球磨地域相談窓口員 嶽本和国


【はじめに】
 畜産農家の後継者不足、高齢化が進む中で、今回紹介する中村広蔵さんは、なんと86歳という年齢でありながら、肉用牛繁殖経営を実践している現役の牛飼いです。


1.地域の概要
 中村さんの住む球磨郡山江村は、熊本市から南に約100kmの鹿児島県と宮崎県との県境、人吉温泉で有名な熊本県の南部に位置し、九州山脈の中央部、豊かな自然環境に恵まれた農林業の村です。
 日本三大急流の一つである球磨川の上流にあり、春夏秋冬、四季折々の顔を持ち、大自然の恩恵を村内全域で感じ取る事が出来る、魅力あふれる自然休養村です。

2.背筋はピンと
牛舎と繋ぎ場  中村広蔵さん 大正7年生まれ 86歳 現役。
 現在、黒毛和種繁殖雌牛6頭と子牛3頭を飼育しており、86歳で背も高く、腰も曲がっておらず、どうみても70歳くらいにしか見えません。奥さんと死別して1人目は40年、2人目は15年になるそうです。毎朝5時半に起床し牛飼いをはじめます。
 飼養牛群を紹介すると、全国和牛能力共進会の出品牛の子という糸福−八重福−福鶴57の血統系統牛、連合のチャンピオンを受賞したという美津福−糸福−福鶴57など血統系統牛を揃えており、この年になっても大分県に行って牛を見たいと云われるほどの牛好きです。
 成牛も子牛も腹がしっかりと出来ており申し分のない管理がうかがわれます。

3.南方を転戦後、牛飼いを再開
自宅の近くの採草地  太平洋戦争に出征し、フィリピンで捕虜となり昭和21年に帰国しました。いつ死ぬかわからない時をすごしてきたため、何事も死ぬ気でやればできるといった強い信念もっておられます。先日も宮崎の児湯家畜市場に交通費、運転手を雇って、子牛を買いにいったが、希望どおりの牛がいなかったため買わずに帰ってきたそうです。自分の好きな牛でないとだめだという妥協をゆるさない牛飼いです。
 牛を飼う費用は年金と恩給をあてており、息子夫婦には迷惑をかけていないと自慢され、またお金はすべて牛にささげているといわれていました。
 先日も66歳の牛飼いの人が中村さんに牛の話を聞きに来ていましたが、66歳はまだ若いと申していました。
 また、先月も熊本市で戦友会があり、出席の予定でしたが、牛の出産予定日と重なったため断念したほどの牛好きです。なお、最近は双子も生まれ今後の成長が楽しみといわれていました。

4.地域振興にも情熱
最近生まれた双子  先般、宮崎のある市場に牛買いにいったところ、昼食は地場産の牛肉だけを使った牛丼であったといわれた。もう少し、熊本県もこのように生産者自ら消費する意気込みが欲しい。と地域振興にも一生懸命であります。
 取材当日も子牛のえさについて質問されるなど、なんでも前向きで研究心が旺盛です。

5.牛飼いのモットー
 種付けも生まれてくる子牛を想像し、期待して交配されます。生まれてくる仔牛が予想した通りならうれしいと笑っていました。
 かつて山江村の犬童村長が当時「牛飼いは草を金に換える仕事」と言うた時、よかこと言うばい、と思ったそうです。「私が牛を飼うのは金もうけの為ではない。牛が大好きだから元気なうちは一日中牛を見て生活したい。だからよその農家が牛やら山羊やらわからんようなやせひごけた仕方むなかとばつないどれば理解に苦しむ。飼うからにはよか牛でないと飼う価値がない。近ごろは老廃牛の腹みを馬喰うにだまかされて買わされて!!あぎゃんと飼うとったっちゃ何になろきゃ。老廃を買うのはまちがい、子牛を買うて自分で育てにゃだめだ。」とのこと。

6.おわりに
平野さん(右)と中村さん  なるほど牛飼いには定年もリストラもないし、生き物を飼っているため、ボケもしない。と感心しました。
 それにしても86才で現役、一人で9頭の牛を飼っておられる素晴らしい人生だと思います。
 「今から草刈りいかんばんで」と達者な者であります。

『今、一番の親友である平野勝馬さん(右)と中村さん
 あん人は理想的な人、よか牛飼い経営ばしとんなる。』








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