■■■  熊本県阿蘇地域における牧野活性化について  ■■■


阿蘇地域牧野活性化センター
活性化マネージャー  湯淺 陸雄
(社)熊本県畜産会 窓口相談員




1.はじめに
畜産業界は、昨年9月に国内でBSEの発生が確認されて以来、未曾有の大混乱に見舞われている。このBSEは海外から輸入された出処不明の肉骨粉が原因ではないかと推測されている。
また、一昨年も輸入粗飼料が原因と疑われる口蹄疫が発生し畜産経営に大きな影響を与えたことは記憶に新しく、このような状況下で国産粗飼料の重要性がさらに高まっている。阿蘇地域では、牧野の恵まれた草資源を有効活用するための新しい活動に取り組んでおりその概況を報告する。



2.阿蘇地域の概況と肉用牛生産
@ 地域の概況
阿蘇地域は九州のほぼ中央に位置し、標高200mから800mのなかに6町6村から構成されている。総面積は120千ヘクタールに及びそのうち耕地面積12千ヘクタール、牧野面積25千ヘクタールが占めている。農林業と観光が当地域の重要な産業となっている。農林業では、米、畜産、野菜が主な作物で約400億円の粗生産額をあげている。観光では年間1,700万人の観光客が訪れており、年間約800億円の観光消費額となっている。 また、6本の一級河川が当地域を源としており中九州の水ガメとして位置づけられており、牧野も水源涵養の一翼を担っている。
A 肉用牛生産
阿蘇地域は、特に肉専用子牛生産頭数が県下の約40%を占めており、繁殖生産に特化した地域である。古くから本県特産の『肥後のあか牛』で知られる褐毛和種の子牛産地として発展してきた。しかし近年、農業の担い手不足等の理由から繁殖用めす牛の減少が著しい。

俵−1(出展:熊本県畜産統計)

また、は昭和60年から平成12年までの繁殖経営戸数と成雌牛の推移を見てみると、経営戸数で約70%、飼養頭数で約40%が減少している。
  

俵−2(出展:熊本県畜産統計)

しかし、1戸当たりの平均規模は昭和60年では3.3頭が平成12年には6.9頭になり約2倍に拡大している。



3.阿蘇地域の牧野
@ 牧野面積と入会権者
阿蘇地域の牧野は古くから火入れ(野焼き)と採草(刈り干し)、放牧の人為的な管理により維持されており、その起源は十世紀に遡ると言われている。
現在、阿蘇地域の牧野面積は約25千haと推測されており、比較的傾斜の緩やかな波状丘陵に改良草地が傾斜の比較的急な部分に野草地が分布している。


これらのほとんどの牧野には入会権があり、牧野の利用や管理について放牧の条件や野焼きや輪地切り(防火帯作り)の出役など集落ごとに取り決めがある
阿蘇地域全体で、約180の牧野組合があり約10,000戸が入会権者となっている。
近年、畜産農家の減少によって入会権者のうち、有畜農家は全体の18%程度と少数派となっている。
一般的に牧野の管理は、有畜農家が中心となり行われ、野焼きや野焼きのための防火帯作りなどの人手を要する作業には集落の年中行事として他の入会権者も出役している。


A 牧野の管理
これらの阿蘇地域の広大な牧野は、牧草等の粗飼料生産基盤であり、長い間、放牧や採草といった営農活動が展開されることにより形成・維持されてきた。
しかし近年、農業担い手の減少等の理由により適正な管理が困難となり、無計画な植林、低灌木の侵入やススキの株化が目立つ牧野も散見されるようになった。
平成12年に阿蘇地域175牧野組合を対象に行ったアンケート調査によれば過去5年間に有畜農家あるいは放牧頭数が減少した牧野組合は78牧野組合にのぼり、回答のあった136牧野組合の約60%に達していた。
また、担い手不足などの理由で牛の放牧が皆無となった牧野組合は、8牧野約800haとなっている。





4.阿蘇地域振興局における牧野活性化方針
このようなことから、牧野の適正管理を進める上での問題点を整理すると次のような項目を挙げることができる。
@ 牧野管理担い手の不足(農業担い手の不足、放牧牛の減少)
A 入会権による牧野の利用制限
B 草地と林地の無秩序な配置による牧野管理の非効率性
これらの問題を踏まえ、牧野の利用促進と肉用牛生産の拡大を図るため阿蘇地域振興局では平成12年6月に局内に牧野利用検討プロジェクトを発足させ、牧野を利用した肉用牛振興指針である「阿蘇地域肉用牛生産新世紀戦略」を策定しこれに基づいた活動を展開することとし、牧野活性化の方針を次のように定めた。


 つまり、肉用牛生産の規模拡大に意欲を持つ経営体に利用度の低い牧野の利用集積を図り(牧野の流動化を図り)肉用牛生産を経営の柱とする経営体を育成していこうというものである。



5.牧野活性化センターの設置
先に述べた牧野活性化方針を実現することを目的に牧野活性化センターを平成13年4月に熊本県阿蘇地域振興局内に設置した。
牧野活性化センターは、阿蘇地域振興局農業振興課職員3名と平成13年6月に社団法人 熊本県畜産会から派遣された相談窓口員1名を迎え合計4名で構成されている。農業振興課職員3名は畜産担当職員で通常の業務に加え、牧野活性化センターとしての活動を行っている。相談窓口員は「牧野活性化マネージャー」という名称で牧野の利用促進に特化した活動を展開している。
直接的には農業振興課が業務の中心となっているが、技術的な面では、農業改良普及センターと林地に関することでは林務課と連絡調整をしながら進めている。(図―1)


牧野活性化センターの具体的な役割は次の3つを柱としている。
・牧野の利用調整
・牧野組合情報のデーターベース化
・牧野に関する調査





6.平成13年度の牧野利用調整実績
牧野活性化センターが設置されてほぼ一年間が経過したが、センター発足当初、「阿蘇地域の牧野には入会権があり、入会地の利用調整は無理ではないか」という声が頻繁に聞かれた。しかしながら、牧野を借りたいという相談が9件、牧野を貸したいという相談が6件、合計15件の相談があった。
 牧野の利用調整は『帯に長く襷に短く』の感があり、貸し手と借り手の双方が納得でき貸借が成立するのは容易ではないが、3件の利用調整ができた。
このうち、草地酪農を目指す新規参入者に利用度の低くなった牧野約30haを斡旋することができ牧野流動化の促進に弾みがついた。
また、阿蘇地域の認定農業者889名に18項目の問を設けた「牧野の利用・管理に関するアンケート」調査を行った317名の回答があり、回答率は約35%であった。このうち約80%が牧野の入会権者で約半数の人が複合経営で繁殖生産に携わっている有畜農家であった。
牧野活性化センターの認知度は22%と低く今後のPRが求められているが、「利用しなくなった牧野は貸してもよい」という回答が56%を占めており、予想したものより高い数字を示していた。このことから、牧野の流動化に対する意識の変化が読みとれた。



7.今後の取り組みと課題
前述のとおり、認定農業者の約半数が牧野の流動化に理解を示しているものの、現在まで阿蘇地域の広大な牧野(=入会地)を維持してきたのは入会権者であり、入会地を利用できるのは入会権者だけという意識が強く、この意識が利用度の低い牧野にあっても牧野流動化の課題となっている。
    この意識を変えていくためには、具体的な牧野流動化の事例を多数示すことが必要と考えられ、まずは活性化センターに相談があった案件について1件でも多く牧野の貸借が成立できるようにしたい。
流動化を推進するための各牧野の地形や草地整備状況、牧柵や飲水設備など放牧施設の状況などの牧野情報が不十分な状況にあり、組合の意向を十分に把握しながら、牧野組合ごとの牧野情報を整理していきたい。
このため、3カ年計画で衛星画像情報を利用したリモートセンシング技術を用い牧野の現況調査を実施する予定である。
 拙稿作成に当たり資料等の提供や御助言をいただいた熊本県阿蘇地域振興局農業振興課諸氏に感謝するとともに、阿蘇地域の肉用牛生産がますます発展することを期待し本文を閉じたい。




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