あか牛で確立した自立経営 
〜熊本県阿蘇郡西原村 林田直行さんの肉用牛一貫経営〜
        
                                                熊本県畜産協会 総括畜産コンサルタント 川ア広通
【はじめに】 

 熊本県は毎年『農業及び農村社会の振興発展に積極的に取り組み、豊かで住みよい農村地域の形成に寄与している優秀な農業経営者を表彰すること』を目的に、
農業コンクール開催している。平成17年度の自立経営部門において、阿蘇郡西原村の林田直行さんが優賞に選ばれた。


 平成14年度の第32回日本農業賞の組織部門で大賞を受賞した南阿蘇畜産農協に所属し、常に変化している内外の畜産情勢のなかで、あか牛の繁殖肥育一貫と
甘藷の複合経営で自立経営を確立した林田直行さんについて紹介する。

         
【地域の概要】

 林田さんが住む阿蘇郡西原村は、熊本市内から車で30分ぐらいのところにあり、雄大な阿蘇国立公園の玄関口にあたる。最近では都市近郊のレジャースポットと
なっており、眼下に熊本空港、熊本平野、遠くは、有明海、雲仙普賢岳が望める地域である。

 村内には、阿蘇外輪の自然の起伏を生かしたゴルフコースが3コースも開設されており、春はワラビ狩り、秋はハイキングコースとしても人気のスポットになっている。
西日本一を誇る広大な採草放牧地には公共育成牧場や家畜改良事業団の熊本種雄牛センターがあり、村内外の畜産振興に貢献している村でもある。


 近年は熊本市のベッドタウン化が進み、大型住宅団地や工業団地などが形成されてきてはいるが、甘藷畑作を中心に熊本市近郊の利点を生かしたサトイモ、ミニト
マトなど野菜の栽培と、地域の自然にとけ込んだ畜産など、都市近郊型農業として発展が期待されている地帯でもある。

            
【経営の推移】

 林田さんは昭和49年に農業高校を卒業後、後継者として肥育牛20頭、タバコ70aで経営をスタートした。昭和56年の結婚を契機に、作目に甘藷120aを取り組んだ。

しかし、家族や農業者仲間と話し合う中で、「これまでの柱として取り組んできたタバコを続けても経営安定は図れない。これからは回転の速いあか牛の肥育経営だ!」と
確信し、昭和60年に公社営畜産基地建設事業を活用し、40頭規模の肥育牛舎を建設した。

当初は肥育もと牛の導入には資金がかかるということで、熊本県畜連の肥育団地導入事業を活用した。また、自給飼料によるコスト削減を図るために飼料作物収穫機械
も共同で購入し、堆肥と稲わらの交換も積極的に取り組んだ。

平成2年には止めていた繁殖牛部門も再開し、平成6年には農業振興資金により肥育牛舎を新しく増築した。また、パソコン利用による牛群の個体管理や青色申告もいち
早く取り組んだ。

 その間、牛肉自由化やBSE発生などの影響を受けたものの、堅実にあか牛一貫経営を拡大し、現在では肥育牛120頭、繁殖牛20頭、甘藷280aの経営を確立した。
今や経営規模拡大と安定のため活用した制度資金も全て返済し、肥育もと牛も全部自己資金で導入するようになり、正真正銘の自立経営者となった。
           

        
【経営の特徴と内容】

@消費者に喜ばれる牛づくり

 熊本県阿蘇地域には、約25千ha余りの豊富な草資源があり、放牧や採草に利用されている。

阿蘇の風景でなくてはならないものがあか牛の放牧で、地域の畜産農家はその草地に4月から
12月まで放牧し、低コスト生産を実施している。

阿蘇に代表される熊本の大自然で育った「あか牛」は、豊かな牧草と澄んだ水をたっぷり与えて
飼育されており、健康的で安全な牛づくりを実践している。



A一貫経営と地域内一貫経営

 あか牛は牛肉輸入自由化を境に、市場価格の低迷が続いた。「このままでは阿蘇からあか牛が消え、
広大な原野も草地も荒れてしまう」という危機感から、林田さんたちが所属する南阿蘇畜産農協では熊本
「あか牛」ブランド確立に向けた産地再興の取り組みを開始した。

 平成2年に林田さんたち肥育部会員からの要望により、地域内で優良雌牛の確保に努め、地域内で育
成された子牛「阿蘇生まれ阿蘇育ちの牛」のみ肥育もと牛として導入することを決議した。その結果、地域
内一貫経営は、南阿蘇ならではの産地銘柄を確立し、粗飼料多給型の健康牛肉として差別化を図ること
ができ、「あか牛」のブランド化に取り組むことができた。


 具体的には、農家別の「母牛台帳」を整備し、牛の誕生から出荷にいたるまで経過を市場開設と合わせ
て整理するとともに、地元肥育農家に地元産優良肥育素牛の情報提供を行った。安心して飼える肥育もと
牛は、素性のわかった自家産牛ほど確実であるが、他からの導入牛においてもすべて地域内から導入し
ている。なぜならば、地域内で生産される肥育もと牛は改良も進んでおり、血統はもちろんのこと、放牧を
経験した健康で飼いやすいおとなしい牛が選べるからである。



B安心の証明「生協」への産直

 林田さんたちは消費者と顔の見える関係作りが大切ということで、平成11年度より生活協同組合への
産直をスタートした。安全で健康な食品に厳しい「グリーンコープ連合」と指定契約を結び、安心を届ける産
直システムとして、全国に先駆けてトレーサベリティーシステムを導入した。先駆けて導入できたのは、出
荷牛すべてが地元生まれという強みがあったからで、放牧や粗飼料自給という地域内一貫生産体制が充
実していたためである。



C回転の早さと1日当たりの収益性の高さ

 肉牛の最終段階は牛肉であるが、安定した畜産経営の基礎は回転の早さと1日当たりの収益性と考え
ている。林田さんが「あか牛」にこだわる理由は、安全性もさることながら、回転の早さをあげている。また
、肉質、特に「キメ・シマリ」の向上のため出荷は生後月齢24から25ヶ月までに設定し、肥育期間DGが
1.0以上になるように努めている。



D経営改善支援指導(畜産コンサルタント)

 肥育経営を開始して以来、自分なりの自己診断を実施してきたが、経営を客観的に分析することを目的
に、昭和63年から熊本県畜産会による経営診断を受診し、自己診断では不十分であった点を認識すると
ともに、経営改善に努めてきた。自分の経営に対する考え方と他の畜産仲間や関係機関との認識の違い
を確かめることは大事なことであると考えている。

 また、パソコンの活用方法についても畜産協会などの機関と常に連携をとって実践している。平成17年
にはパソコンを新機種に買い換えたのと同時に、中央畜産会が開発した肉用牛データベースの経営デー
タ処理システム(農家版)を導入した。このシステムを利用するとリアルタイムに現状を把握することができ、
常に経営分析もできるようになった。今後は経営分析も自立を目指すつもりである。



E地域社会への貢献

 就農当初から西原村4Hクラブの設立に取り組んできた。また、農業研修生の受入や関東地域からの修
学旅行生の民泊協力なども行っている。

平成17年6月からは南阿蘇畜産農協の副組合長に就任し、さらに同8月からは西原村総合コントラクター
組合長として堆肥センターの運営など、村内の担い手のとりまとめ役として活躍されている。

また、世界的な食料危機が叫ばれているなか、地元にある豆腐工場から排出されるおからを飼料に利用
したり、入会地の野草の刈り取りを行うなどしてさらに生産コストの低減に努めている。

広大な自然の中で放牧される「あか牛」

肥育部会活動として消費者との交流も

肥育牛舎を生協関係者が視察

         肉用牛データベース利用による経営分析
【おわりに】

 林田さんは所得の安定とゆとりある経営を目指しており、そう言った意味であか牛の経済性に感謝して
いると言われている。


 安定した経営を維持するためには、今後も畜産と甘藷の複合経営を継続したいと考えている。甘藷は現
状の規模で維持していくが、管内全体の繁殖頭数が減少するなかで、社会・経済状況など自分をとりまく
環境を見極めながら、今後もあか牛にこだわり、繁殖牛50頭、肥育牛200頭まで規模拡大を実施する予
定で、現在新牛舎を建築中である。


 林田さんが「サラリーマンは所得が安定しているだろうが、農業で経営が安定するなら、こんなに気楽で良
い商売はない。」と言われた。今後も地域畜産振興のリーダーとしてまた、消費者と一緒に、美しい阿蘇の
大自然と、それを支えるあか牛を守り続けていくと思われる。

     搬入されたトウフカスは飼料に


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