■はじめに
├古代人は何を食べていた
■仏教の肉食禁止
■わが国の近世から現代の肉食と健康
■国際的な日本の位置
■栄養素摂取の日米比較
■ライフステージ別栄養
■長寿地域の食パターン
■食肉に含まれる栄養素の特性とその働き
├食肉の種類と栄養成分
■調理法による栄養価の変化
├肉類を調理する理由
├加熱による食肉の変化
├食肉の調理による変化
├和牛と輸入牛肉の違い
■食肉とたんぱく質
├なぜたんぱく質を食べ
なければならないか
├動物性たんぱく質が
優れているわけ
├日本人と動物性たんぱく質
├「トピックス」
食肉のたんぱく質
■食肉とコレステロール
├コレステロールとは?
-体内における役割-
├体の中で作られる
コレステロール
├コレステロールの体内移動
├コレステロールと
脂肪酸の関係
├コレステロールと健康・疾病
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■長寿地域の食パターン
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私たちが人類にとって理想となる食パターンを想定するときの基本は、決して動物実験ではありません。動物実験は、人類における問題の一部を解決するために行われるのです。だから、人類の生存にあり得ないような動物実験は無意味なのです。現在の地球上の酸素濃度が5倍になったらどうするとか、牛1頭分に相当するようなワラビのアクを注射して影響を調べても、研究費の無駄遣いにすぎません。
人類にとっての理想的な食パターンは、研究者の脳裏に突如思い浮かぶというものでもありません。元気に長生きしている集団や地域に共通するパターンを分析して、共通性を抽出するのが一般的な方法です。したがって、長寿でもない地域を長寿地域と規定してしまうと、その観念の妥当性は根底から崩れてしまいます。表9に示した俗に言う世界3大長寿地域も、その最たるものです。ビルカバンバはアメリカの調査団によって、百歳人が過去にも現在にもゼロであったことが実証されました。ほかの2地域も近辺のほかの地域よりは長寿であっても、世界に冠たる長寿地域でも何でもありません。
表9 世界三大長寿地域
地域 |
ビルカバンバ
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フンザ
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コーカサス地方
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国名 |
南エクアドル
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西パキスタン
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ソ連
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地域の特徴 |
赤道直下アンデス山中
標高1,500m 渓谷
年平均気温20℃
常春 |
ヒマラヤ山中の渓谷
夏 30〜40℃
冬 0℃以下
標高500m以上 |
ソ連コーカサス地方
夏 30℃
冬 0℃以下
標高500〜2,000m |
長寿者 |
4,564人中
センチナリアン16人
140歳以上が2人いる |
28,000人中
センテナリアン6人
145歳の長寿者、90歳で子供
をつくった男性の存在など |
例えば、グナジア共和国
470万人中
センテナリアン1,844人
(0.039%)
120歳以上62人 |
宗教 |
カトリック |
近代宗教はない |
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食習慣など |
穀物、豆中心
酒、タバコをかなりたしなむ |
穀物あるいはそのパン、野菜、
豆、牛乳まれに肉、酒 |
主食は粉
野菜、果実が多い
牛・羊・山羊の乳、その製品が多い
酒、タバコをたしなむ |
出典:木村修−.柴田博編:長寿食事典、サイエンスフォーラム、1995
幻の長寿地域を盲信し、そこにおける食生活を長寿食と思い込むことがいわゆる「粗食長寿説」を生み出す要因となっているのです。このことはわが国にも当てはまります。平均寿命が70歳を超えた時点で、人口当たりの70歳人口の割合が高いところを長寿地域と規定した誤りにベースを置いています。したがって、過疎地を長寿地域と混同してしまったのです。
本当の長寿地域は、国レベルでは日本ということになります。小さなグループ単位では、ハワイへ移住した日系人は世界の最高水準の長寿を達成しています。しかし、今回は日本の中の長寿地域における食パターンについて述べてみたいと思います。
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