食肉の栄養知識/



■はじめに
 ├古代人は何を食べていた

■仏教の肉食禁止
■わが国の近世から現代の
 肉食と健康

■国際的な日本の位置
■栄養素摂取の日米比較
■ライフステージ別栄養
■長寿地域の食パターン
■食肉に含まれる栄養素の
 特性とその働き
 ├食肉の種類と栄養成分

■調理法による栄養価の変化
 ├肉類を調理する理由

 ├加熱による食肉の変化
 ├食肉の調理による変化
 ├和牛と輸入牛肉の違い
■食肉とたんぱく質
 ├なぜたんぱく質を食べ
  なければならないか

 ├動物性たんぱく質が
  優れているわけ

 ├日本人と動物性たんぱく質
 ├「トピックス」
   食肉のたんぱく質

■食肉とコレステロール
 ├コレステロールとは?
   -体内における役割-

 ├体の中で作られる
  コレステロール
 ├コレステロールの体内移動

 ├コレステロールと
  脂肪酸の関係

 ├コレステロールと健康・疾病


 
 栄養素摂取の日米比較  

図10 日本人と米国人の摂取エネルギーの返還

出典:鈴木正成:「ごはん食-その健康制と文化性」食糧庁,全国米穀協会,1989
 ここで、世界の先進国の中で食肉の摂取の最も多いアメリカと、最も少ない日本の栄養素摂取を比較してみます。両国間の総エネルギー摂取が大きく異なります。アメリカは3000kcalを超えていますが、日本は2000kcalです。とりあえずはそのことを無視し、3大栄養素の割合を比較します。そのデータが図10です。
 アメリカも今世紀の初めの頃は、脂肪の割合は30%でした。しかし現在は、40%を超えています。日本は脂肪が増えたといっても25〜26%にとどまっています。アメリカの脂肪摂取量は140gに達し、わが国では60g位です。アメリカの目標は脂肪摂取量を90gまで低下させることですが、わが国の現状はアメリカの目標の3分の2にすぎません。
 実は、このアメリカの脂肪摂取を減らす戦略は20年間の努力にもかかわらず成功していません。しかし、20年前は脂肪の7割が動物性であったのに、6割にまで低下しました。日本は動物性の割合が5割ですが、これがアメリカの目標となっています。アメリカは脂肪摂取量を減らすことには成功していませんが、動物性の脂肪を1割減らしたことにより虚血性心疾患が減少し、そのお陰で頭打ちになっていた平均寿命が再び上昇に転じました。

図11 アメリカの現状と目標
 アメリカの栄養素摂取、特に脂肪酸の現状と目標に関して少し詳しく説明しましょう。予備知識として脂肪酸には、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の3つの種類があることを認識しておく必要があります。各々の脂肪酸がどのような食品に多いかを示したのが表5です。そして図11には、アメリカの現状と目標を示しました。これを併せてご覧ください。
 飽和脂肪酸は最もエネルギー効率の良い安定した脂肪酸です。代謝の過程で老化やがん、動脈硬化の原因となる過酸化脂質を作りにくい脂肪酸です。しかし、これが多すぎると血中のコレステロールを上昇させたり、血小板を固まりやすくして動脈硬化の原因となります。

 一価の不飽和脂肪酸は、最近注目を集めています。血中のコレステロールを下げたり、血小板を固まりにくくする作用は多価不飽和脂肪酸と同じでありながら、比較的過酸化脂質を作りにくいメリットがあります。最近、イタリア料理ブームに伴いオリーブ油の人気が高くなってきた背景にはこのような学問的な事実があるのです。
 多価不飽和脂肪酸の最も有名なものはリノール酸です。最近では、魚油に含まれているエイコタペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸の人気が高まっています。この脂肪の抗動脈硬化作用はよく知られています。しかし、この脂肪酸の過剰摂取は体内の過酸化脂質をたくさん作り出し、有害なのです。
 図11で明らかなようにアメリカは、現状では目標(理想)に対し、飽和脂肪酸の割合が高すぎるので、それを減らし不飽和脂肪酸の割合を上げようと努力しています。リノール酸ブームもそのような理由で発生したのです。

 一方、日本の現状は飽和脂肪酸が1、一価の不飽和脂肪酸が1.1、多価不飽和脂肪酸が1の割合になっています。アメリカの目標より一価不飽和脂肪酸が少し高めですが、今日の栄養学的知識からはむしろ好ましいと言えます。
 実は、アメリカでリノール酸ブームが起きた時点で日本はアメリカの目標を達成していたので、それに追随する必要は全くなかったのです。栄養摂取の状況や実態の異なる国のガイドラインを直輸入することは有害なことなのです。何故なら、その時点でのわが国でもっと不飽和脂肪酸を増やすことは、老化を早めたりがんや動脈硬化の危険性を高めたからです。

 イヌイット(エスキモーと呼ばれたことがある)は、魚や海獣をもっぱら食べています。海獣も魚を常食としていますので、体の脂肪酸構成は魚のそれと近似しています。このイヌイットは、世界で最も短命な部族の1つなのです。脳出血や肺動脱出血で死ぬ人が多いのは血液が固まりにくくなっているためです。老化の早いこともよく知られています。最近わが国には、魚油は多く摂るほど体に良いと考えている人もいます。しかし、これはきわめて危険なことです。総脂肪には適正な量と適正な脂肪酸の割合があります。アメリカの目標、あるいは日本の現状を大きく逸脱した摂取は有害なのです。