■はじめに
├古代人は何を食べていた
■仏教の肉食禁止
■わが国の近世から現代の
肉食と健康
■国際的な日本の位置
■栄養素摂取の日米比較
■ライフステージ別栄養
■長寿地域の食パターン
■食肉に含まれる栄養素の
特性とその働き
├食肉の種類と栄養成分
■調理法による栄養価の変化
├肉類を調理する理由
├加熱による食肉の変化
├食肉の調理による変化
├和牛と輸入牛肉の違い
■食肉とたんぱく質
├なぜたんぱく質を食べ
なければならないか
├動物性たんぱく質が
優れているわけ
├日本人と動物性たんぱく質
├「トピックス」
食肉のたんぱく質
■食肉とコレステロール
├コレステロールとは?
-体内における役割-
├体の中で作られる
コレステロール
├コレステロールの体内移動
├コレステロールと
脂肪酸の関係
├コレステロールと健康・疾病
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■はじめに |
わが国には、食肉に関する様々な誤解があります。これが、食肉の摂取にブレーキをかけ、高齢者などの健康増進の妨げになっています。これを解決するには、食肉の持っている栄養学的な機能を十分理解することが大切です。しかし、それだけでは不十分です。日本人が食肉とどのように付き合ってきたかを、歴史的に明らかにすることも大切です。何故なら「日本人は西洋人と違って、穀類や野菜を中心に摂ってきた。だから腸が長く、肉や油脂を摂ると体の変調を来す」といったことが、まことしやかに語られているからです。本当にそうなのかを歴史的に考察する必要があるのです。
また、「最近の日本人の食生活は欧米化し、食肉や油脂を摂りすぎて、野菜が不足している」といったことも方々で語られています。これが本当に正しいか否かは、歴史的に考察すると同時に、地理的にも見る必要があります。世界の国々と比較して、日本の食パターン、特に食肉の摂取にどのような特徴があるかを見ることが大切です。
ここでは、理想的な食生活の組み立ての中で、食肉がどのような位置を占めるべきかについても言及します。もちろん、理想的な食生活の組み立ては、年齢すなわち、ライフステージによっても異なります。
実は、この面でも大きな誤りがあります。現在の若い人と高齢者を比較すると、高齢者の方が肉の摂取が少ないことは確かです。これを「今の高齢者は若いときには肉を食べていたけれども、年を取って食べなくなった」と考える人が大多数です。
実は、これは正しくないのです。今の高齢者は、若いときにも肉を食べなかったので、今も食べないにすぎないのです。これを出生した年代による差(出生コホート差)と言います。これと加齢変化を混同することにより真理から次第に遠ざかるのです。このことも正しておく必要があります。
■古代人は何を食べていた
「日本人は元来、穀類や野菜を中心に食べていた……」は正しいでしょうか。正しくありません。紀元前300年位から、弥生時代が始まります。朝鮮半島から渡来した弥生人が稲作の技術をもたらしたのは周知の通りです。
しかし、その前に日本全体に生活していた縄文人は農耕をしておらず、採取と狩猟によって食物を得ていました。縄文人の先祖は、ヨーロッパのクロマニヨン人と同様に狩猟民族であったと考えられます。食生活はイノシシ、シカ、カモシカ、また魚介類など動物性食品を沢山摂っていたと考えられます。
アイヌの人々と沖縄県の人々は、弥生人との混血が最も少ない人々です。筆者は、北海道の千歳でアイヌの人々の生活を昭和20年から5年間つぶさに観察しました。膨大な土地が空いていてもほとんど農耕をしませんでした。熊、シカ、ウサギそして鮭などの狩猟や採取を中心に生活していました。
人類の農耕の歴史は、その採取時代の長さに比べ、ほんの一瞬でしかないのです。日本人の農耕の歴史も弥生人の伝来以来ですから、2千年位のものです。元々、穀類や野菜を中心に食べていたから肉食が体に合わないなどという言い方は、人類史の矮小化にすぎません。一部の人に、自然に存在している多くの植物は人間の体に有益であるという狂信があります。とんでもない間違いです。植物は、人間に食べられるために存在しているわけではなく、自らの生存を守るために様々な装置を持っています。動物と違い、外敵から逃げるための移動能力を持ちません。したがって表面にクチクラという鎧をまとったり、動物が食べれば死に至るような毒を持って身を守っています。
人類は植物を軟らかくしたり無毒化するために品種改良をし、少しずつ食用にしてきた苦闘の歴史を持っています。最初から人類に有用な形であった植物性食品も皆無ではないにせよ、それを発見するためにも長い時間がかかっています。人気のトマトも最初は観賞用だったのです。
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