■はじめに
├古代人は何を食べていた
■仏教の肉食禁止
■わが国の近世から現代の
肉食と健康
■国際的な日本の位置
■栄養素摂取の日米比較
■ライフステージ別栄養
■長寿地域の食パターン
■食肉に含まれる栄養素の
特性とその働き
├食肉の種類と栄養成分
■調理法による栄養価の変化
├肉類を調理する理由
├加熱による食肉の変化
├食肉の調理による変化
├和牛と輸入牛肉の違い
■食肉とたんぱく質
├なぜたんぱく質を食べ
なければならないか
├動物性たんぱく質が
優れているわけ
├日本人と動物性たんぱく質
├「トピックス」
食肉のたんぱく質
■食肉とコレステロール
├コレステロールとは?
-体内における役割-
├体の中で作られる
コレステロール
├コレステロールの体内移動
├コレステロールと
脂肪酸の関係
├コレステロールと健康・疾病
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■「トピックス」食肉のたんぱく質 |
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●鉄とたんぱく質---
体内の隅々にまで酸素を運ぶ血色素・ヘモグロビンは、鉄を含んだたんぱく質です。ヘモグロビンは骨髄の貯蔵鉄を利用して作られますが、鉄は体内で作ることが出来ません。ですから、食物として常に供給しなければなりません。食肉に含まれているヘム鉄は、野菜などに含まれている非ヘム鉄に比較して腸管での吸収率が良く(吸収率はヘム鉄の25%に対し非ヘム鉄は約5%)、更にヘム鉄は非ヘム鉄の吸収を促進させることが分かっています。ですから、野菜と食肉を一緒に食べることは鉄を摂取するポイントとして重要です。
体内の鉄の約70%はグロビンというたんぱく質と結合してヘモグロビンになります。ヘモグロビンは酸素を運搬していますが、このほかにフェリチンというたんぱく質と結合して貯蔵鉄となります。また、筋肉内では、ミオグロビンというたんぱく質と結合して、血液中のヘモグロビンと同様酸素の運搬たんぱくとして働いています。
このように、鉄は体内でたんぱく質と深くかかわっていますので、食品から供給する場合にもたんぱく質と一緒に摂るのが効率の良い方法です。食肉は、この意味からも大変すぐれた食品というわけです。
●タウリンと食肉---
含硫アミノ酸の一つであるタウリンの働きが、今話題になっています。ストレスに対して感受性の強い人は、交感神経の刺激によって分泌されるホルモン(カテコラミン)が多く、これが動脈硬化を促進し、心筋梗塞を招きやすいと言われています。タウリンなどの含硫アミノ酸は、交感神経を抑制し、血圧の上昇や心拍数の急激な増加を抑えることが家森幸男教授らの研究で証明されました。
タウリンには更に、胆汁酸と抱合してその排泄を助けるなど肝臓を保護する作用や、膵臓から出るホルモン(インスリン)の分泌促進、骨や神経細胞の発育などにもかかわっていると言われています。このように多彩な働きをするタウリンですが、体内で合成されるのは必要量の半量だけで、残りは食物として摂取しなければなりません。図8に示すように、食肉、特に舌、腎臓などの内臓にはタウリンが豊富に含まれています。ですから、タウリンの供給源としても、食肉はもっと見直したい食品なのです。
●動物性たんぱく質と食塩嗜好---
明治時代から近年までの日本人の食物摂取状況の変遷を国民栄養調査成績で見ますと、肉類や卵類の消費量が増え、逆に食塩の摂取量が減少してきていることが分かります。
このことから、動物性たんぱく質には減塩効果があるのではないかと考えられます。これを裏付けた実験を紹介します。
昭和女子大学大学院の木村修一教授らは、いくつかのグループに分けたラットにたんぱく質の量を変えた餌と、様々な濃度の食塩水を与え、ラットの様子を観察しました。すると、餌に含まれるたんぱく質の量が多いグループほど、濃度の低い食塩水を好んで飲みました。また、与えたたんぱく質が動物性と植物性とで違うか否かを見ますと、明らかに動物性たんぱく質を与えたグループの方が薄い塩水を好むことが観察されました。すなわち、食塩に対する嗜好が低下することが分かったのです。
肉類などの動物性たんぱく質を多く摂取すると、食塩摂取量は減少し、薄味のものが好まれるようになるのです。
長寿地域として知られている沖縄では、豚肉を中心とした肉類や内臓がよく食べられていますが、食塩の摂取量は全国平均をかなり下回っていることが分かっています。
低たんぱくの食事を続けると、味を感じる味蕾の味細胞のターンオーバー(入れ替わり)に時間がかかるようになります。感受性の低くなった古い細胞がたくさん残っていて、塩辛さに対しても感じ方が鈍くなり、塩分の濃いものを多く食べるようになるのではないかと推測されます。
●動物性たんぱく質と体内におけるアルコール処理能力---
動物性たんぱく質は、体内におけるアルコール処理能力を高めることが証明されています。再び、木村修一教授らのラットを用いた実験の結果を見てみましょう。
高たんぱくの餌を与えたグループの方が低たんぱくの餌のグループよりもアルコールを多く飲みました。また、同じたんぱく質でも動物性のものと植物性のものとでは、アルコールを飲む量が異なっていました。すなわち、食肉のたんぱく質で飼育したラットはアルコールをよく飲み、大豆たんぱくを与えたラットはアルコールをあまり飲まなかったのです。なぜそのような結果になったのかを知る目的で、血液中のアルコール濃度を調べてみました。すると、大豆たんぱくの餌で飼育したラットでは血液中のアルコール濃度が高く、しかもなかなか低下しませんでした。これに対し、食肉のたんぱく質を食べているラットの血液中のアルコール濃度は、短時間のうちに低下しました。すなわち、食肉のたんぱく質を餌としたラットがアルコールをたくさん飲んだのは、植物性たんぱく質を餌とした場合よりもアルコールの処理能力が速やかだったためと考えられます。
お酒を飲むときには、良質のたんぱく質をつまみとして食べれば、アルコールの分解も速く、体のためにも良いということになります。
●食肉に含まれるトリプトファン---
最近、精神に影響を与える物質として注目されているものにセロトニンがあります。セロトニンは、必須アミノ酸の一つであるトリプトファンが代謝されて出来る物質です。血小板に含まれ、従来から血栓を誘発する物質として知られていました。しかし、その後の研究で、脳内にセロトニンが増えると精神を活性化させ、充実感や幸福感が得られることが分かりました。逆に、うつ病の患者では、セロトニンが不足していることが明らかになりました。セロトニンは、人間の感情を支配している重要な神経伝達物質であることが分かったのです。
神経伝達物質は、脳内で生成されるものが多いのですが、セロトニンは生成することが出来ず食事として摂ったトリプトファンから作られています。食肉はこのトリプトファンを多く含んでいて、ここにまた1つ食肉を食べる意味が見いだされるのではないでしょうか。
●ストレスはたんぱく質を消耗させる---
ストレスに遭遇すると、体内から多量のたんぱく質が失われます。なぜなのでしょうか。ストレスに晒された体は、回復するために新たなエネルギーを放出します。その結果、心臓の拍動が高まり、血圧が上がり、血糖が増え、体温が上昇するなどしてホメオスタシスの回復がはかられます。この新たなエネルギー源は、体内に蓄えられているたんぱく質を取り崩すことによって得られています。まず、筋肉のたんぱく質が動員され、次に血液中に最も多量に含まれているアルブミンというたんぱく質が使われます。それでも足りないときは、ほかの組織のたんぱく質も動員されます。これらのたんぱく質はアミノ酸にいったん分解され、肝臓で再合成されて必要な場所に送られます。
急性ストレス、例えば外傷を受けたときには1日に15〜25gものたんぱく質が、飢餓の場合は1日に5〜7gのたんぱく質が消費されるという報告があります。
慢性のストレス時のたんぱく質の消費について、はっきりしたデータは見あたりませんが、ストレスに負けないために日頃から良質のたんぱく質を充分に摂取することを心がけることが必要です。
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