食肉の基礎知識/



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 食肉の熟成について  

 生きた魚を刺身で召し上がったことがありますか?こりこりとした歯ごたえと、独特の甘みを持った素晴らしい味覚に出会った方は、なぜこんなにおいしいのかと思われたことでしょう。
 魚類や動物類は、死後に必ず硬直現象を起こします。筋肉の中には糖類に属するグリコーゲンがあり、これが乳酸化するまえに食べるわけですから、独特の甘いうまみが味わえる、というわけです。
 鮮度の悪くなった魚類は、身のしまりが悪くなり、急速に風味を失います。魚を料理するには、鮮度の良いものを手早く調理することです。
 台湾など東南アジアの一部では、夜中にと畜した豚を朝早く露天の市場で枝肉のまま吊し切りにして売っています。現地の人の話では、と畜後、冷蔵庫に入れて2〜3日経ったものはうまみが乏しくなるので評価は下がると言います。すなわち、と畜後数時間しか経過していないものが評価が高いのです。と畜直後というと、まだ死後硬直の状態にあり、筋肉は硬いはずです。これを手早く調理して食べるということは、きめが細かい軟らかな部位でもかなり硬いと思われます。しかし、先程の釣りたての魚の味と同様に、甘味を感ずると思われます。硬い肉は「まずい肉」という先入観のある日本人には、とうてい理解出来ないかもしれません。

 動物類は、と畜後に必ず死後硬直が起こります。これは、死後、酸素を供給する血液の循環が停止するわけですから、酸化現象が停止します。そして、筋肉に含まれるグリコーゲンが分解して乳酸が生成され、pHが低下し、ATPの減少などによって、保水性が減じ筋肉が硬直します。
 と畜直後の硬直状態のままでも食べることは出来ますが、肉は「熟成」という過程を経ることで軟らかくなり、より一層独特の風味が出てきます。
 動物の体内細胞に含まれる何種類かの酵素は、乳酸やリン酸を生成し、これらは微生物の発生を抑えつつ、死後も一定時間働き続けます。また、死滅した細胞(主としてたんぱく質の組成)やコラーゲンを膨潤させ、肉を軟らかくし同時に保水性を生じさせます。この一連の現象を「自家消化」と言います。
 冷蔵庫での牛肉、豚肉の保管の理想的な維持温度は、摂氏0〜2度位です。熟成期間としては、牛肉では5日以上10日位、豚肉では3日から5日位が適当です。保管中にもし冷凍状態になりますと、熟成作用は停止するか緩慢な状態になります。また、庫内が5度以上になりますと、熟成は早く進みますが、同時に食肉そのものの変質が起こります。
 また、熟成には個体差にもかなり留意しなければなりません。すなわち、若齢で水分の多い食肉は熟成期間が短く、脂肪の良く付いた肥育の進んだものは長めとなります。
 最近ではあまり見かけませんが、肉付きの良い種雄牛を食肉用にする場合、3週間以上冷蔵庫内に保管し、わざと麹菌などを寄生させ、肉の表面が真っ白く綿毛が生えたような状態にします。そこでこの1〜2cm生えたかびを拭き取り、表面の黒くなったところをトリミングして、販売していたことがありました。昭和30年代のことです。この状態にまでしますと、熟成がかなり進み、硬い種雄牛の筋肉も相当に軟らかくなり、また麹菌の作用もあって風味は味噌漬けのような一種独特のものが出来ます。東京の下町のある牛肉店の老舗は、今でも高級な和牛をこの状態まで熟成させ、販売して絶大な人気を得ています。また、ある高級フランス料理店では、サーロインやヒレなどの高級部位をこのような熟成状態にしてから調理しています。
 しかし、問題点としては、商品の回転率の悪さやトリミングをかなりきつくしなくてはなりませんので、商品コストが上がり採算上問題が出ます。また、一種独特の風味にすべての人が馴染むとは限りません。
 しかし、このような牛肉を味わいますと、軟らかい上に麹菌が作り出す味噌漬けに似た風味が、何ともうまいと言う人も少なくありません。
 この長期熟成の条件は、完全な冷蔵庫内の温度維持と、何と言っても牛肉の個体条件があります。すなわち、肥育の進んだ水分の少ない牛肉でなければなりません。

 最近、牛肉は国内生産の伸び悩みと需要の斬新的な拡大と共に、牛肉生産輸出国からの大量の輸入が恒常的になっています。需要家は、安値である輸入牛肉に質的向上を期待する声が強く、主要輸出国であるオーストラリア、ニュージーランドでは、その声に応えるべく色々と技術改善を試みています。例えば、生体の段階から牛のと畜年齢や重量などを、需要家の要求する厳しい規格に基づいて生産し、日本へ向けて輸出しています。
 輸送及び保管の段階でも、昔からの冷凍状態のものから真空包装によるチルドパックが一般的となり、高い品質を保持する努力を続けています。

 輸出国を出た食肉が日本の小売店で販売されるまでには、おおよそ3〜5週間位かかっています。この間、牛肉に不可欠な「熟成(エージング)」が自然に行われています。従って、輸入牛肉が硬くてまずいというのはもう過去の話です。
 しかし、熟成も過度になりますと変質や品傷みが起こります。適当な期間(真空包装状のものでは5週間位までのものが適当と言われています)に熟成を結着させるため、急速凍結をしてフローズンで保管する方法も開発されました。この商品はエージドビーフと呼び、牛肉が輸入自由化される前の平成3年頃は、かつての畜産振興事業団(現農畜産業振興事業団)が需給調整にして利用していました。
 しかし、現在は、牛肉は輸入自由化されており、輸入相手国からの商品輸入は、需給家の要求によってチルドあるいはフローズンと、その形態ははっきり区分されています。
 チルドでの真空包装製品も各種の技術革新で、風味を損なわない期間(シェルフライフ)が更に延伸し、60〜100日位のものまで可能になりつつあります。