食肉の基礎知識/



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 家畜の生産から食肉が出来るまで  


牛の一生
 私たちが食べている牛肉のうち、約60%はオーストラリアやアメリカから輸入されています。残り約40%が国内生産で、そのうち、黒毛和種などの肉専用種が約45%、乳用種に由来するものが約55%を占めています。

●肉専用種のライフサイクル
 肉専用種(黒毛和種、褐毛和種及び日本短角種の和牛が大半ですが、アンガス種やヘレフォード種などの外国種も含まれています)は、どんな一生を送るのか見ていきましょう。
表2 肉用牛の人工授精の普及率
昭和41年 1.1%
昭和50年 60.7%
平成7年 96.0%
 肉専用種の雌牛は、生後15〜16ヶ月齢の時(体重300〜350kg)に初めて交配されます。その9割以上を人工授精で行っています。放牧されている牛などの中には、種雄牛と一緒にして自然交配による繁殖を行っているものも一部見られます。アメリカ、オーストラリアなどでは、肉専用種は自然交配によっているのが一般的です。
 人工授精では、優秀な種雄牛の精液をストローに詰め(0.5ml)、マイナス196度の液体窒素の中で保存しておき、受精するときに凍結精液を融解して用いるのが一般的となっています(表2)。
交配され妊娠した雌牛は、約285日の妊娠期間を経て、25〜26ヶ月齢時に初めて子牛を産みます(牛は単体動物ですから、普通1回に1頭だけ出産します)。
 生まれた子牛は5〜7ヶ月間、母牛に育てられますが、後半の2〜3ヶ月間は草や配合飼料(アメリカなどから比較的安価に輸入できるトウモロコシ、こうりゃん、大豆粕などを原料に配合した飼料)、穀類なども与えられます。また、雄牛は生後2〜3ヶ月齢時に去勢します。これは、肉質を良くし、太りやすくし、性質をおとなしくして飼いやすくするために行います。
 こうして大きくなった子牛は、5〜7ヶ月齢時に離乳し、雌牛は育成後、一部は肥育に仕向けますが、主に繁殖に用いられ、雄牛(去勢牛)は肥育に仕向けられます。
 肥育仕向けとなった去勢牛(生後10ヶ月齢・体重290kg)は、約20ヶ月かけて肥育され、約690kgに仕上げられます。この間、配合飼料や大麦、草、稲ワラなどが与えられますが、大まかに言って10〜11kg程度の穀物類の餌を与えることにより、体重が1kg増える計算になります。このほか、肉専用種の雌牛で繁殖の役目が終わったものは(平均9歳)そのままと畜されるほか、1〜3ヶ月間「飼い直し」と言って、配合飼料や穀物を用いた短期間の肥育を行い肉質を良くして出荷されるものがあります。

●乳用牛のライフサイクル
日本で飼われている乳用牛の大部分がホルスタイン種ですが、乳用牛の場合、その飼養目的が牛乳を生産することにあるため、牛乳のでない雄牛は優秀な種雄牛になるもの以外は食肉用として肥育に向けられます。
ホルスタイン種の雄子牛は、生まれると約1週間、母乳で育てられます。これは、分娩直後の牛乳(初乳)に色んな免疫物質が含まれているためで、子牛を丈夫に育てる上で初乳を飲ませることが必要不可欠です。その後、母牛は搾乳に用いられますので、子牛は母牛から離され、脱脂粉乳などを原料とする人工乳、乾草、配合飼料などにより人工哺育され、肥育素牛として、7ヶ月齢、体重270kgに育成されます。それらの素牛が1年余りかかって肥育され約760kgに仕上げられます。その間、与えられる餌は肉専用種の場合とほぼ同様です。ただ、ホルスタイン種は大型品種であり、1日当たりの増体量が多く、増体能力が優れていることから、肥育期間は肉専用種よりも短くて済みます。ただ、脂肪交雑が少ないなど、肉質では肉専用種に劣ります。
牛は草食動物なので、人間が消化吸収出来ない草などの繊維質を牛乳や肉に作り替えることが出来るという特性を持っています。従って、放牧状態でも牧草が豊富であれば自然に太るのですが、肥育の後半はもっぱら配合飼料中心にかなりの量の穀物を与えて肥育しています(図1)。