平成18年度
草地畜産生産性向上対策事業






「放牧主体畜産生産物の普及・
啓発に係る実証・調査報告書」
−放牧主体畜産物生産の技術開発・ブランド化に関する実証・調査−




はじめに 

日本の肉牛肥育において粗飼料の給与水準は全乾物給与量に対して10%前後で、濃厚飼料多給による肉生産が一般的である。最近、放牧・粗飼料多給による肥育様式の実態と生産された牛肉の消費者に有効な機能性成分、食味、食感に大きな関心が持たれるようになって来た。

粗飼料多給型肥育の実用化に向けて初めて公的に言及したのは、1987年版日本飼養標準(肉用牛)で、摂取乾物中の粗飼料の割合を35%未満と35%以上に分けて、それぞれを濃厚飼料多給型肥育と粗飼料多給型肥育として定義付けがされている。とくに粗飼料多給型肥育の適用は採食量が良好な良質粗飼料(乾物中のTDN含量が62〜65%)の多給が前提条件となる。

粗飼料多給型肥育はごく一部の地域で実施されていて、褐毛和種の親子放牧育成による肥育素牛を導入後、前期粗飼料多給型および全期粗飼料多給型肥育として放牧飼養を実践する持続型草地畜産展示牧場である産山村上田尻牧野組合で、わずか年間90頭程の枝肉を産直で愛知、大阪へ出荷している。その概要については平成17年3月日本草地畜産種子協会が刊行した「放牧主体畜産の生産管理ガイドライン(案)」で報告した。これによって、生産履歴や基本的な方針となる生産規範を明確にしたところである。なかでも @牛に涙を流させない飼い方、A再生産可能な生産システム、B牛を丸ごと売り切る流通販売システム、C安全・安心、美味しい肉作りの四原則に副った、自主遵守すべき「生産基準」作りが重要と考える。

そこで、粗飼料多給型肥育様式の中で、究極の高品質赤身肉生産と目される2シーズン放牧肥育について、一夏目の親子放牧育成肥育素牛をあたかも二夏目も放牧したような粗飼料多給肥育をし、仕上げ月齢を上田尻牧野組合での24ヵ月齢よりさらに長い28ヵ月齢とした実証・調査(以下「試験」と言う)を南阿蘇畜産農業協同組合の肥育舎で実施した。試験牛の飼料および養分摂取量、血液検査所見、枝肉成績、食肉の呈味・機能性成分、肉の食味アンケート、飼料費および肥育コストについての概要を報告する。


目次
T.実証・調査(試験)の取組と調査方法
1.2シーズン放牧型肥育とは 
(1)2シーズン放牧型肥育について   (2)2シーズン放牧型肥育による実証

2.南阿蘇畜産農業協同組合の取組み

3.調査方法 
(1)供試牛の概要       (2)給与設計      (3)血液検査 
(4)牛肉の機能性成分分析        (5)食味アンケート調査
U.結果及び若干の考察
1.飼料及び養分摂取量と増体効果
2.血液検査の所見
3.枝肉成績
4.食肉の機能性成分
5.試験牛の肉食味アンケート結果
6.飼料費及び肥育コスト
附表:調査牛の生体・四分体断面写真


      おわりに
 今回の「2シーズン放牧型肥育」の実証試験によって、放牧および粗飼料多給型による産肉特性と、肉質並びに肉の品質特性が明確に検証された。ここで得られた事実と知見は「放牧主体畜産(粗飼料多給型飼育を含む)の生産基準」作成に活用できよう。
 目下のところ、1シーズン放牧肥育、1シーズン放牧型肥育(前期粗飼料多給型肥育)、全期粗飼料多給型肥育が実用化され、さらに2シーズン放牧肥育では仕上げ目標月齢を28ヵ月齢としており、本肥育実証試験によって粗飼料多給型肥育の全貌を把握できたと言えよう。すなわち、肉牛品種の産肉特性を最大限に引き出し、草地畜産の本領を発揮しつつ、過度な穀物肥育による代謝疾病の発症がなく、牛肉本来の肉味を重視した日本型牛肉生産として、この「高品質赤身肉」の対極の位置にある「霜降り肉」とともに、輸入牛肉と対比されるものとなろう。
 熊本県食肉衛生検査所によると両区ともに内臓廃棄はなかったが、一般に試験区のような粗飼料多給牛はすべての内臓が充実していて好評である。今回、内臓の食味について詳細なアンケート調査はできなかったが、試験区の肝臓、複胃、大腸などを数人で試食した結果、どの内臓においても、美味しさ、肉厚、歯ごたえなど良好であった。枝肉のみならず内蔵を含めて、牛丸々一頭を全評価することが重要であり、産直取り扱い店からもそのような要請が強まっている。
 今後、2シーズン放牧肥育を上田尻牧野組合で実施する予定であり、A-2レベルでの最高級赤身肉生産の実証が待たれる。
 なお、この実証試験の調査には南阿蘇畜産農業協同組合、熊本県中央・阿蘇家畜保健衛生所、九州沖縄農業研究センター、日本あか牛登録協会、熊本県農林水産部畜産課、阿蘇地域振興局農林部等に多大の協力をいただいたことに深謝します。
                                                     《未訂稿案につき転載禁止》

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